メイドとして
その日からケイトは、早速行動に移した。カトレアへの配膳係に積極に立候補し、同僚にも頼んで当番を変わってもらうこともあった。
「ケイトちゃん、最近張り切ってるね」と聞かれた時は、素直に「カトレアお嬢様と仲良くなりたくて」と話す。隠しても仕方ない。次第にメイドたちの間でも協力してくれる人が現れるから言葉に出してみる、ということは不思議である。
「ケイト、今からお嬢様のところへ配膳するから一緒に行く?」
「ありがとうございます!ぜひご一緒します」
先輩に声をかけられて、ケイトは早速カトレアの元へ向かった。
カトレアと接触してから数週間、ケイトはいまだに彼女と会話をしたことがない。
「……そこに置いといて。早く出て行って」
カトレアは部屋に篭りきりなので、配膳の際にしか彼女の姿を見ることはできない。配膳が終わるとこうしてすぐにメイドを追い出すのだ。
今回も配膳が終わると、カトレアはベットの端で体を丸くさせ、こちらを見ることもなく、扉を指差した。早く行け、と言うジェスチャーだ。
ケイトは配膳の度にカトレアに話しかけていた。
「お嬢様、今日はとても天気が良いですよ。お散歩なんていかがです」
「……」
といっても、いまだにカトレアからの返事は返ってきてないのだが。
ここ数週間、ずっとこうだ。ケイトがいくら挨拶をしても返事はなく、ちょっとした雑談をしても反応はない。
反応があるのは…初日に先輩メイドが話した父親のワードのみだ。
しかし、ケイトは父親のことを会話に出すのはあまり良くないと判断していた。多忙な父親の話をして変に期待させて、最後に傷つくのはカトレアだ。できれば避けたい話題でもある。
「ケイト」
一緒に配膳を担当している先輩メイドに話しかけられた。今日はもう終わりの時間だ。渋々部屋から出るケイトの今日の収穫は、ゼロである。
「ケイト、毎日根気よくお嬢様に話しかけていて、すごいね」
帰り道、豪華で長い廊下をトボトボ歩くケイトにメイドの先輩は明るい口調で声をかけてきた。
「…そんなことないですよ」
本当にそんなことないのだ。毎回話しかけても、カトレアはだんまり。こちらを見る素振りもない。カトレアとの距離が縮まる気配はない。
「どうやったら、お嬢様と仲良くなれるんでしょう…」
ケイトの疑問は、言葉として出されたはいいけど、そのまま答えが出ないまま、宙へ消えた。
「……うーん、分からないけどまずは与えられた仕事をきちんとこなすことからかなあ」
少しの沈黙の後、先輩がぼそりと呟いた言葉。ケイトにとっては、まさに目から鱗が飛び出る言葉であった。
「仕事を…きちんと…」
ケイトの反応が思わぬものだったのか、メイドの先輩も少し驚いた様子で言葉を続ける。
「そ、そうそう。やっぱりまだ屋敷に入ったばかりのメイドだから、お嬢様は警戒してるかもしれないわ。これがもし、屋敷に貢献してる仕事のできるメイドだったら…もしかしたら、話を聞く気になるのかも」
「…確かに…そうかもしれません」
先輩メイドの言う通りかもしれない。自分はまだ屋敷に来たばかりの若輩者だ。カトレアもすぐにこちらに心を開くわけがないだろう。なんでそんな簡単なことに早く気づけなかったのか。ケイトは己の視野の狭さを痛感した。
「先輩…私もっとお仕事に励みます!」
「ええ、よく言ったわケイト。私も協力するから、頑張りましょうね」
「はい!」
ケイトは先輩に感謝し、熱い拍手を交わした。その日移行、ケイトは今まで以上にメイドとして仕事に励んだ。いつもよりも仕事の量を増やし、積極的に同僚の仕事を手伝った。同僚の何人かは、張り切る彼女を心配していたが、ケイトは特に聞く耳を持たずに仕事に取り組んでいる。
「ケイト、この仕事もやっといてくれるかしら?」
「はい!お任せください」
頑張って、名実共に頼りになるメイドになるんだ。そうしたら、カトレアもきっと心を開いてくれるだろう。
「……あら?」
視界がぼやける。気づいた時、ケイトはすでに倒れていた。




