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「はあ、お腹がキリキリと痛むわ…」
「心中察するわ、あなたも毎日大変ね…」
使用人室で項垂れてるメイドに同情の目を向ける同僚達。ここは屋敷の使用人達にとって唯一、安らげる場所といっても過言ではない。しかし、
「んふ、あんたはよくやってるわよ。あんな変わり者のお嬢様の相手なんてなかなか務まらないもの。それとも似たもの同士なのかしらね?」
残念なことにこうして、水を差す嫌な人間も少なからずいる。とある使用人の棘のある一言にメイドはまたか、とうんざりした態度を隠さずに頭を掻いた。
一部の同僚から嫌味を言われるのは珍しいことではない。それもこれも、自分が重要な仕事を旦那様から任されないことへの嫉妬だろうとメイドは捉えてたため、特に気にも止めずにいた。今までは、だ。
「あーあ、かわいそうに。奴隷の侵入を許したばかりか、お嬢様に近づけたあんたは旦那様にバレたら、ジ・エンド。んふ、これまでのキャリアが水の泡ね」
今まではスルーしていた気味の悪い笑顔が今は憎たらしい。しかし同僚の言い分はもっともなのだ。事実はカトレア自身がクロを招いて住まわせてるのだが、そんな言い分は通るわけがない。カトレアの世話を任されてるメイドが1番に責任を負わされる。使用人一同がメイドに同情の目を向けるのもそれが原因のひとつだ。口には出さずともメイドは理解していた。
「そうね、今回ばかりはつくづくあんたがお嬢様付きじゃなくて良かったと思うわ。もし立場が逆だとしたら、あんただったら1日もたたずに問題を起こして即刻クビだものね」
笑顔で言い返されると思ってなかったのか嫌味な同僚は肩をふるわせ「んふ!そう言ってられるのも今のうちよ!荷物でもまとめてた方がいいんじゃない?」と吐き捨て、使用人室から飛び出した。気まずそうにゾロゾロと退出する数人の同僚の仲間達を静かに冷たい目で見つめるメイド。
舐めるなよ、メイドは心の中で毒づいた。屋敷1番の破天荒なお嬢様付きを任される女だ。並大抵のことでへこたれるような柔な精神をしていない。
そしてお嬢様は確かに変わり者だが、決して使用人風情に馬鹿にされるような人間ではない。表面的にしか物を見れない者には一生分からないだろうが。
カトレアに絶対的忠誠を捧げるメイドにとって、見当違いな発言をする使用人など取るに足らない小物でしかなかった。
だからこそ、
クロという存在に価値を見出すカトレアに
メイドは底知れない奇妙さと畏れを抱いていた。
せめてクロがカトレアに興味を持たないままでいてくれるのを願うばかりだ。
しかしメイドは知らなかった。大人たちの目を掻い潜り、2人がどんな会話をしているのかを。