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「…………使わない?」
クロが差し出したハンカチは奴隷として初めて会った日に汚れを落としたものだ。レースのハンカチは、綺麗に折り目をついている。
「……このハンカチ、ずっと持ってたの…」
「…………ん」
ぶっきらぼう、だけど優しい。目の前の彼は、確かにカトレアが良く知るクロ本人だ。少女はハンカチを受け取り、目を軽く拭った。
「ねえ、元気だった?」
クロはこくんと頷く。
「最近は何をしていたの?」
「…………変なところに連れられて…変な人と話していた」
「変な人って…。でも私も一緒よ、ずっとここで、お医者様と看護婦さんとお話ししてるの。退屈だわ」
同意するようにクロもまたコクンと頷いた。
「ねえ、前に言っていた通り、この港町綺麗でしょう?ここからちょうど、海が見えるわ」
クロの背に広がる港町の景色。人々が往来する街並みと広がる海。海の向こう側からは小さな船が見えた。
「クロと一緒に見たかったの。小さい頃見た景色より街はもっと大きくなっていて、綺麗になってるわ…本当に見れて良かった…」
カトレアは恍惚とした表情で目の前に広がる景色を眺める。クロも無言で海を見た。
カトレアの瞳に映るのは広大な海とクロの横顔。
この瞬間を焼き付けよう。カトレアは瞬きさえ惜しんで、ひたすらに景色を見つめた。