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「彼はね、捜索願いを出されていた子供なんだ。何の間違いか、奴隷として生活していたようだが、本来なら然るべきところで暮らせる人間なんだよ」
「……お父様」
父親の説明はカトレアにはどうでもいいことだった。
「…それは、クロ自身が望んだ道なのよね?」
カトレアにとって大事なことは、それがクロが選んだ選択肢であること。それだけだった。
奴隷として出会った少年。カトレアの意思で屋敷に引き取り、留めるために家出までした。そこにはクロの意志はない。
「ああ、彼は自ら騎士たちのもとに行ったよ」
「そう、ならいいわ」
クロが決めたことだ。自分がとやかく言う必要はない。カトレアに寂しさや戸惑いはなかった。
「…それでこそ、私の娘だ、カトレア。君はしばらく見ない間に立派なレディになったようだね」
「当然でしょう、お父様。私はタンザナイト家の一人娘なのよ!」
「ああ、その通りだね。カトレア、久しぶりにもっとお前の顔を見せておくれ」
「お父様ったら、本当に寂しがりやなのね」
カトレアは笑って、父親に抱きついた。懐かしい香りが鼻を掠める。
「ああ、寂しがりやで甘えたがりな父を許してくれ、カトレア…」
カトレアがどんな表情をしているのか、父親の体に覆われているため見えない。
2人はしばらくの間ずっと、抱き合った。