お嬢様と
薬のような独特の香りが鼻を掠める。妙に嫌悪の残る香りが息苦しくて、カトレアは瞼を開いた。目の前をチカチカと光る物体が浮かんでる。ぼやけてた目の焦点が合い、光る物体がランプだと知った時、カトレアは自分がベットの上で寝ていたことに気づいた。
「あら、気づきましたか。いま、先生たちに連絡をいれますからね」
髪を引っ詰めにまとめた女性と目が合う。簡素なワンピースに身を包む女性は、一瞬カトレアの知ってるメイドに見えたが、残念ながら別人だった。気の強そうな女性は手元にある用紙に何か書き込んでいる。
カトレアは今どんな状況に置かれてるのだろうか。確認したいが身体が重くて起き上がらない。
女性に話しかけようとしたが「では私はこれで」と一言だけ言い残し、颯爽と部屋から出て行った。
「……ここは、どこかしら…」
天井と一部の壁しか見えないが、見覚えのない部屋なことだけは分かる。
一体何がどうなっているのか。カトレアにはさっぱりだ。ぼんやりした頭を使ってどうにか前の記憶を辿ってみる。
「……あ、私…あの民宿で…悪い人たちに攫われそうになって……」
思い出した。とんでもない事件だった。クロの機転でどうにか身を隠せたが、最後の最後で見つかってしまったはずだ。
では、先ほどの女性は、あの悪人たちの仲間?確かにこの部屋は薬品くさく、気分も最悪だ。クロの姿も見えない。どうしよう。どうしよう。
「クロ……!!」
ベットで寝てなんていられない。カトレアは力を振り絞って起き上がる。と
「にゃあ」
聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。シーツの端から何かモゾモゾと動いているのが見える。
「コロネ?」
まさか、と思いながら愛猫の愛称を呼ぶとモゾモゾの正体は、勢いよく飛び出してきた。
「にゃ!」
「コロネ!会いたかった!!元気だった?よしよし…寂しい思いをさせたわね…」
チョココロネはカトレアに飛びつくと甘えたように頬にすり寄る。少女は愛情たっぷり気持ちを込めて愛しい猫を撫でた。
「みゃああ」
「でもなぜここにいるの?ここは悪党の巣窟じゃないの?」
「こほん。そうさ、ここはある意味悪党より怖い大男が住む屋敷なのだよ、カトレア」
「!きゃああ」
突然話しかけられ、カトレアは悲鳴を上げる。人生の終わりを覚悟した。
「そんなに怯えて…よっぽど怖い目にあったんだね、カトレア」
「お、お父様?!」
扉から顔を出したのは、カトレアの父親だ。カトレアが屋敷を飛び出した目的の人物。
カトレアは混乱した。何故、何故、何故?
「おや、可愛い我が娘よ。困ってるみたいだね。それでは私から種明かしをしよう」
娘の疑問に応えるようにカトレアの父は口を開いた。