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2

頭上では大人の醜い争いが繰り広げられた。獲物を逃した哀れな生き物たちは、怒りをぶつけることしか出来ないようだ。


計画通りの展開にクロは笑いを抑えるが、その足は少しだけ震えていたのをカトレアは見逃さなかった。流石の彼でも一か八かの賭けだったのだろう。少女は先程少年から貰った安心と包容を少しでも返そうと、背中を少しだけさすった。


「やっぱりガキは外へ逃げたんだ!こうしてるうちに逃げ切っちまう!!せっかくの獲物が!」


「落ち着きな!1人は薬を飲んでる!そう遠くに行っちゃいないだろう。まず厩に向かってないか確認するよ!」


「むしゃくしゃが止まらねえ、厩のやつはやっていいか?」


「…いや、やつは金目のものを持ってない。いざとなった時の人質にする。幸い、薬入りの軽食をさっき運んだばかりさ。ガキが来てないか確認するだけでいい」


御者はすでに眠り薬を飲まされてるらしい。向こうも用意周到だ。



「あんたは厩に行きな!私は、外に痕跡がないか見てくる!」


クロの狙い通りだ。ドタドタと大きな足音が入り乱れたと思ったら次第に遠のいていく。女と男は部屋から出て行ったらしい。


「……」


ようやくクロとカトレアは顔を見合わせた。驚くべきことに2人とも同じような表情をしていたのだ。重苦しい圧力から解放されたかのようで、今にも吐き出しそうな苦しい顔だ。無理もない。生死を争う事件がこの短時間でいきなり襲いかかってきたのだから。


「……一旦部屋に戻りましょう」


カトレアの囁き声にクロは頷いた。


2人が隠れていたのは、床下収納ではない。正真正銘の床下の建物の土台下の空間部分である。


湿気やカビ臭さが漂う薄暗い虫だらけの空間で、2人は息をころし、見事に頭上の大人たちを惑わすことに成功した。



街まで距離がある森の中、しかもあたりは暗く、足場も悪い。普通に脱走しても逃げきれる保証はないのは子供でも理解できた。


民宿の女の考え通りだ。今から外に逃げ出すのは得策じゃない。


そこでクロは考えた。外に逃げたように見せ、プラスで罠を仕掛けることを。最初は床下収納に隠れようとしたが、やめた。いくら何でも家の主が収納場所を忘れるはずがない。そのためクロとカトレアはわざとカーペットをずらし、窓を開けて外から床に身を隠したのだ。カーペットをずらしたことに大人2人が気付いたのかまでは分からないが、予定通りにことが進んでくれた。


二重のフェイクを仕掛けたおかげで、見事逃げ切れたのだ。


そして2人は再び、窓から部屋に入り、床下収納に隠れた。今度は一切の跡を残さず。


完璧だ。これで見つかることはない。あの2人の慌てようだ。同じところを調べることはないだろう。


「…………」


かといって全てが終わって一安心とはいかない。


外は今犯罪者が躍起になって2人を探してる。

このまま息を潜め、朝が来るのを待つか。御者はどうする?この状況で助けられるわけがない。クロは思案するが、最適解が見つからない。


いい加減一息つきたいのもあった。今日は一日中、馬車に揺られ、身体が痛い。本来なら休む時間だ。クロはともかく、お嬢様であるカトレアはもう限界だ。


疲れも溜まってるのだろう。隣の少女は眠り薬の効果もあって、次第にうつらうつらと首を揺らすようになった。


クロはカトレアの頭をポンポンと静かに撫でる。その手が妙に心地よくてカトレアは眠りに落ちてしまった。


「……はあ」


カトレアの寝顔を見ながら、クロは眉間に皺を寄せる。


朝になれば、人の往来も出るだろう。このまま静かに待つのが得策だろうか。


クロは失念していた。警戒心が緩み始めた時が1番危険な時だと。カトレアの浅い眠りの呼吸が耳元をくすぐる。カトレアがクロの肩を枕にして眠ってるような状況。疲れが溜まってるのはカトレアだけじゃない。限界だ。


少しだけ。クロは目を瞑った。


疲れている子供が目を瞑ったら、それは次第に眠りを誘うものだ。


2人の子供はそのまま眠りについた。


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