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善人そうに見えた人が、こんな恐ろしいことをしているなんて…。カトレアは恐怖とともにショックを受けていた。
カトレアは善悪の判断がはっきりしている。悪徳貴族を嫌い、裏表の激しい執事を貶すぐらいには、自分の中の正義を信じていた。
しかし、今までは命の危険を脅かすような窮地に立たされたことはなかった。屋敷内で大切に育てられたカトレアは悪人はもっと分かりやすく単純な物だと思っていたのだ。
世の中には、偽善の仮面を被った悪人がいることをこの時カトレアは、初めて知った。
「……」
2人は互いの体が触れる程の近い距離で床下に隠れている。そのためカトレアがどれほど怯えてるか、クロには痛いほど伝わった。
クロはどうして良いか分からず、顔色の悪いカトレアの肩をギュッと抱き寄せた。カトレアは隣の温もりに安心を感じたのか、落ち着きを取り戻したようだ。
頭上からは話し声と足音が近づく音が聞こえる。
「じゃあ、ココアに眠り薬を?」
「ああ、でもあのシスター見習いだけはいくら勧めても口もつけなかった。仕方ないからこれから運ぶ夕飯に加えたさ。部屋で呑気に飯食って寝た後、あんたが踏み荒らせば良い」
「完璧な計画だな」
たしかにロビーに案内された時に出されたココアにクロは手をつけなかった。もちろんカトレアは飲んでいる。クロは隣をチラリと見ると
「…………っ」
カトレアが目を全開に開けて、腕を全力でつねっていた。
とにかく眠気を覚まそうとしてるのだろう。その表情は子供と思えないくらいの鬼の形相だ。
私がクロの足手纏いになるわけにはいかない…!カトレアは数分前にココアを飲んだことを後悔しながら、全身に力を入れて、眠気と闘った。