4
床下に隠れた2人は息を潜め、時間が経過するのを待った。
狭く暗い床下という空間に子供とはいえ、男女が2人。しかし2人の間には甘い空気はなく、どことなく緊張した面持ちをしていた。ひたすら無言でその時を待っている。
「~~しかし、相手は子供だろう?」
「!」
ようやく声が聞こえた。ヒソヒソ声の正体だろう。クロとカトレアは顔を見合わせた。
「馬鹿だねえ、あんた。格好は普通だけどやけに大人と会話が慣れてるガキともう1人は修道服を着たガキ!あれは間違いない。訳ありの小金持ちの子供だろうよ」
「……!」
誰かと会話をしている。1人は男で相手は宿屋の女の声だ。カトレア達はそのまま耳を澄ませる。
「じゃあ金は持ってそうなのかい?」
「ああ、民宿代を受け取る時、ガキが取り出した大きい袋の中にある金!私はバッチリ見たさ。まさにあんたが望んでいた金をぶら下げた獲物だよ」
「へっへっ。それはいいな。子供だから抵抗もしないだろう。外に停めてる馬車は?」
「御者なら裏のボロ厩で休んでるよ。捜索願を出されても困るからあとでまとめて始末するつもりさ」
「本当に恐ろしい女だぜ。伊達に何年もやってないな」
「……」
恐ろしい会話を聞いてしまった。クロの背筋が凍る。
ここは、普通の民宿ではない。
客人から物や命を略奪する猟奇的な犯罪者が巣食う場所だ。女が客を招き、仲間と共に実行する。計画的だ。会話の内容からすると、何年もこの恐ろしい犯罪を隠蔽してきたのだろう。
だから、他に人の気配はないのか。クロは納得した。
客人が多すぎても、同時に捌くのは難しい。女性は「丁度よく部屋に空きが出た」と言っていた。もしかしたら、2人が泊まる前に他の客人が犠牲になっていたのかもしれない。そう思うとゾッとする。
「……っ」
クロの隣で、カトレアも声にならない悲鳴をあげていた。