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付き添いの使用人たちを退室させ、部屋に残ったのはカトレア、奴隷、メイドの3人のみ。メイドとしては奴隷もそのまま追い出したかったが、カトレアが機嫌を損ねるので仕方なく部屋に留まることを許可した。


「あなた、本当に綺麗な髪色をしてるわね、身体は貧相だけど大丈夫。しばらくここで暮らせば少しは見れるようになるわよ」


部屋の隅でこちらを警戒するように睨む奴隷の子供にカトレアは一定の距離をとりながらも優しく話しかける。しかし、奴隷がカトレアに心を開く様子はない。この光景をしばらく見ていたメイドはどうやってお嬢様を説得しようかと思案していた。


「そうだ…名前をつけましょう。貴族は、名前をつけてなさそうだったわ。けど今日からあなたは私の所有物だもの。私が名付けるのが道理よね」


カトレアの提案に一瞬、奴隷の眉がぴくりと動いたのをメイドは見逃さなかった。警戒心マックスの態度に加えて、その表情は暗く強張っている。貴族に奴隷として扱われた日々を思い出したのだろうか。


「そうねえ…クロワッサンなんて、どう?」


しかし我らがお嬢様の行動は、予想の斜め上をいくことをメイドは忘れていた。


「……は?」


「お嬢様、クロワッサンだなんて…食べ物ではないのですから」


初めて奴隷の声を聞いた気がしたが、それどころではない。メイドもこればかりは口を挟まずにはいられなかった。


「どうして?飼っている猫にチョココロネと名付けた時は何も言わなかったじゃない」


「それは猫だからですよ」


本気でカトレアは何が悪いのか理解していない様子だ。メイドが説明に困っていると、部屋の隅から鼻で笑ったような声が聞こえた。


「…俺、別にいいよ。それで」


想像よりも低い声だ。暗い表情は変わらないが、奴隷はこちらを蔑むような視線を向けている。無礼な態度にもちろんメイドは腹を立てた。


「その態度はなんです。あなたなんてね、お嬢様のお慈悲があればこそ」


「そう、これからよろしくね。クロ」


メイドの怒りを遮るようにカトレアは奴隷に手を差し出した。奴隷の視線は確かにその手を捉えていたが、動く様子はない。失礼な奴隷の対応にカトレアは気にもとめてないようだ。肝心のカトレアの様子を見て、メイドはこの気持ちの行き場を無くしてしまった。


「ねえ、ところであなた…その声、しかも自分のこと俺って言ったわよね?」


「……今更?俺は男だよ」


奴隷のカミングアウトにメイドが悲鳴をあげたのは言うまでもない。


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