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3

古い建物ではあるが、隅まで丁寧に手入れのされた孤児院は、カトレアたちに取って居心地の良い場所だ。


軽く建物内を見学した後、歩き疲れた2人は、案内されたソファに腰を下ろした。


お茶請けに出されたりんごのお菓子。甘い砂糖にコーティングされた珍しい見た目のお菓子にクロはきょとんとした顔つきで見つめた。


「屋台で買ったお菓子よ。2人は食べたことある?」


孤児院の管理人であるお姉さんは器用にお茶を注ぎながらカトレアたちに質問をする。


「小さい頃、お父様に買ってもらったわ。…クロはないみたいね」


意外にもクロは横に首を振った。この国では珍しい黒髪の髪がふわふわと揺れる。


「……前に何度か」


りんごのお菓子はポピュラーな子供向けの食べ物だ。一度は食べたことがあってもおかしくはない。


しかし、前、とはいつのことだろうか。あの性悪貴族が奴隷にまともなものを食べさせるようにはとても思えない。とすれば奴隷になる前の出来事だろうか。


そういえばクロから過去の話を聞いたことがないな、と今更ながらカトレアは気がついた。


りんごのお菓子を辿々しく齧るクロは行儀良くソファに座っている。服装もきちんとしているからか、カトレアの目には以前とは見違えたようなクロの姿が映っていた。


カトレアは当然として、こうしてみるとクロも充分裕福な出身の子供に見える。しかし佇まいや所作は一朝一夕で身につくものではない。カトレアの心は少しだけざわめいた。


「足長お嬢ちゃん?」


管理人のお姉さんの声で我に返る。カトレアは淹れたてのお茶を口に運んだ。クセがなく子供でも飲みやすい味である。


「いえ、何でもないわ。美味しいお茶ね」


「口に合うようなら良かったわ」


クロは無言でりんごを齧ったままだ。カトレアは口を開く。


「ねえ、この施設に入居する子供の条件って何かしら」


「え?ああ、基本的に両親や保護者のいない未成年の子供全員よ。両親がいた場合でも、何らかの理由で育てられない状態であれば確認次第、保護もするわ」


パリ、とりんごのコーティング部分が割れる音がした。齧られたりんごは歪な形でバランスを保っている。クロの表情は変わらなかったが、僅かに漆黒のまつ毛が伏せられた。


「なぜそんなことを聞くの?もしかして保護したい子供がいるとか?」


「……いいえ、聞いただけよ。もう外も暗いしお茶を飲んだら、帰ろうと思うわ」


孤児院からは祭り場所は遠く、賑わいの音は聞こえない。静けさの中、りんごを齧る音だけが響いた。


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