お嬢様と街祭り
馬車に乗る前にふと街の様子がいつもと違うことに気づいた。薄暗いはずの景色がいつもより明るい。
「ああ、どうやら街中では夜祭をやってるらしいですよ」
ちょうど馬に餌を与えていた御者が説明をしてくれた。
言われてみれば確かに人通りも多い。心なしか美味しそうな香りも漂ってきた。
カトレアは目を輝かせる。
「クロ、お祭りですって!」
タイミングよく以前街を案内する予定が執事のせいでなくなったのを思い出した。2人で街を巡れる機会なんてそうない。
カトレアはクロの手を引いて夜の街へと繰り出した。あたりは色とりどりのランプで彩られて。人形劇、ミニサーカス、みるもの全てが新鮮な光景だ。賑わいの中をとにかく2人で練り歩いた。
「クロ、見てよ!くるみ割り人形の劇をやってるわ!」
カトレアの視線の先には、からくり人形劇に集まる子ども達の姿がある。劇の内容はくるみ割り人形。少女がくるみ割り人形をプレゼントされるところから始まる物語だ。
「聖なる夜の日、少女の家は大きなパーティを開いていました。大人も子供も楽しそうに踊っています…」
語り部は人形を操るお爺さんだ。お爺さんは器用に手を動かしながら、物語を紡いでいる。不思議なことに登場人物が本当にそこに生きているかのように見えるのだ。観客の子どもたちは夢中である。カトレアもクロも後ろの席に座り、その輪に加わることにした。