3
カーテンの開いた音が聞こえ、カトレアは視線を上げた。どうやら試着が終わったようだ。
「……クロ、似合ってるじゃない!」
グレーのブラウスに黒のベスト、チェックのズボンに身を包む少年は、少し照れ臭そうに目を逸らした。
「私の作った服は上等ものだ。あとは着る本人が服に見合えばいいんだけど…」
「クロは充分あなたの服に見合う人間よ。こればっかりは譲れないわ」
力強く言い切るカトレアに女店主はニヤリと笑う。こればかりは仕立て人である彼女も否定はしない。
それぐらい新しい洋服はクロに似合っていたのだ。不思議と以前から着ていたかのようなしっくりさがある。
服装が違うだけでこうも印象が変わるのか。こうしてみると貴族出身の子供に見えなくもないな、とカトレアは思った。
「本当にありがとう!仕事ぶりだけはあなたのこと、尊敬するわ!」
「一言多いねえ、ガキのお客様。まあいい、服は他にも作ってるから、馬車に積んどきな」
お互いに憎まれ口を叩きながら、残りの洋服を馬車に積む。
用件も終わり、もうそろそろ帰る頃だ。
「ちょっと、そこのガキ」
女店主の呼びかけにクロは振り返る。初対面の時の引っ掛かりのせいでクロはいまだに彼女に対して警戒を解いてない。
「気になったんだけど、あんた全然喋らないね。あんたの飼い主が買ったものに対しては、礼を言うべきじゃないのかい?」
「…………ありがとう、ございます」
唇を噛み締めながら、ようやくお礼を口にするクロ。よっぽど言いたくなかったのだろう。今までに見たことのないくらい悔しそうな顔をしていた。
女店主は満足げに笑う。
「なんだ、やればできるじゃないか」