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「ずいぶん失礼ね。私はクロを友人として大切にしてるわ」
クロのことを他人に悪く言われるとカトレアの機嫌はすこぶる悪くなってしまう。どうしてみんな、分かってくれないのだろう。
「おやおや、本当にそうかい?美しいもの好きなあんたが本当に善意だけで奴隷を助けたのかい?違うだろう?」
「……」
「仮にあんたがそのつもりだったとしても、周りの使用人たちはまたお嬢様のわがままだと思うだろうね。振り回されてる側の人間が目に浮かぶよ」
女店主は大袈裟にやれやれと肩を落として見せる。
「別に頭の硬い使用人たちが正しいとは言わない。けどね、線引きはしないと困るのはあんただよ」
「……」
カトレアは答えない。彼女の言いたいことが伝わったからだ。
当初のカトレアにとってクロは保護するべき人間であった。しかし今ではその境目があやふやだ。カトレアは彼を友人のように大切に思ってる。絶対に手放したくないと思ってる。
そこで思い出した。あの悪徳貴族が最後までクロを手放すのを渋っていたことを。
あの時、貴族の奴隷の扱い方に非情だと判断し、結果としてクロを助けた形として屋敷に向かい入れたが今私がやっていることはあの貴族と変わらないのではないか?
クロを自分から引き剥がさないように周りを巻き込んでいる私の行動はもしかしたら異常なのではないか?
「むしろ、奴隷として扱った方がお互いに幸せだと思うね。あたしゃ」
女店主の呟きはカトレアに届いたのだろうか。少女は何か考えるように床を見ていた。