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「ふふ。身綺麗にした奴隷を見れば、そう嘆いていられなくなるわよ。今、奴隷の子供は他の使用人に頼んで湯に浸からせてるわ。そろそろ終わる頃じゃないかしら?」
カトレアの話が終わるのと同時にドアのノック音が聞こえた。噂をすれば、だ。カトレアが応えると、ドアはゆっくりと開き、数人の使用人がゾロゾロと入室した。
「カトレアお嬢様、準備が整いました。…こちらへ」
先頭の使用人が後ろの影に声をかける。姿を見せたのは…小柄な子供だ。
カトレアは目を輝かせたが、反対にメイドは複雑そうに顔を歪ませた。
身長はカトレアと同じくらい。しかし血色の良いカトレアと違って、その子供は明らかに栄養不足からくる貧相な体つきをしていた。屋敷で用意した仕立ての良い服を着させられてるのでその悲惨さが余計に目立っている。
極め付けはその表情。付き添いの使用人たちをギロリと睨むその光景は懐かない猫、なんて可愛らしい言葉では例えられない。人を心から信じてないような冷たい顔つきをしていた。
とてもじゃないが、由緒正しき血筋のお嬢様に近づけていい人物ではない。メイドは一瞬でそう悟った。子供の付き添いである使用人たちも一同に顔が暗い。考えることは同じだ。
「ああ、やっぱりきちんと洗ってもらって正解だったわ。シルクのワンピースにその綺麗な髪もよく映えてる。あなた達、いい仕事したわね。褒めて遣わすわ」
「は、は!お嬢様にお褒めの言葉をいただけるのは…光栄です」
この場で唯一、カトレアだけが機嫌が良さそうだ。
確かに子供の髪は珍しい黒曜色で、ふせられた長いまつ毛も漆黒に染まってる。なるほど、とメイドはようやく納得した。カトレアは東洋の文化や歴史に興味があり、以前から旦那様に頼んで東洋の宝石を取り寄せていた。自国では見ない色合いに魅了されてるのだろう、
つまり、珍しさにつれられて、買い物をしたと言うわけだ。やれやれ、お嬢様の気まぐれにも困ったものだ。メイドは心の中でため息をついた。