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「お、お嬢様…?」
予想外の反応だったのだろう。セバスは慌てふためいた。
カトレアは我慢できずに心の声を吐露する。
「セバスなんて…陰気だし、性格悪いし、私の好きなもの全部取ろうとするし…本当に心の底から大嫌い!クロよりあんたの方がいらないわよ!」
「……!!!!」
何かが崩れたような音がした、気がする。カトレアが静かに泣き、クロは彼女の背中を無言でさすった。この展開を予想していたのであろう、メイドは手早くポケットから取り出したハンカチでカトレアの涙を拭う。ただ1人、セバスだけが思考停止したように動きが止まっていた。
「…………」
「…執事様、今日はこの辺りでお戻りになった方が良いと…執事様?」
「……お嬢様が…私を…き…きら…」
まるで壊れた時計のように一定の音しか発さなくなったセバスはヨロヨロと歩き出し、部屋から姿を消した。よっぽどカトレアの言葉が心に来たのだろう。あまりの変貌ぶりにメイドは少しだけ可哀想に思った。しかし大事なカトレアを傷つけたのである。やはり当然の報いだ。
メイドは静かにカトレアを抱きしめた。
「申し訳ありません。立場があるとはいえ、私がもっと止めるべきでした。どのような処罰でも受けますから、今日は一旦部屋にお帰りになりましょう」
優しく諭すように話すとカトレアはコクンと頷く。泣き疲れてしまったのだろう。カトレアはメイドに肩を寄せるように目を閉じた。メイドはこの世で1番気高く可愛い少女を抱き寄せる。部屋を出る前、メイドはクロに話しかけた。
「今日はあなたも大変でしたね。充分に休みをとってください。…処遇は今後おって連絡が来るでしょうから指示があるまで部屋で待機するように」
業務的な話し方の中に若干の気遣いが感じられる。クロは戸惑いつつも頷いた。
「…こんな時でも、全然口を聞かないのね」
「…………俺、は」
「……」
「……ここにいない方が、いいですか?」
「…………」
メイドは何も答えずに、クロを見つめた。細い腕にいびつに巻かれた包帯。毎日の食事で少しは見れるようになったがまだまだ貧相な体。今までどのような暮らしをしているのだろう、カトレアと同年代に見える少年はどこか大人びて見えた。悲しいことに年相応の子供ではない。奴隷、彼はあまりにもカトレアと違う存在だ。
「…それを決めるのは、カトレアお嬢様だけよ」
メイドは静かに呟いて、大事そうに抱えた少女と共に姿を消した。