3
「ああ、すまないねケイト。こほん。お嬢様、そこのドブネズミの処遇ですが…即刻この屋敷から追い出すのが私めは最善かと思います」
「クロは私が買ったのよ。きちんと面倒を見る責任があるわ。規定違反はタンザナイト家の汚名よ」
この国では貴族の奴隷所持について細かくルールが定められており、そう簡単に手放すのは罪に問われる。セバスも同じことを危惧していたのか悩ましげに目を伏せていた。
「そう、そこなのですよ。タンザナイト家が社会的に不利な立場になるのは避けたい…というわけで少し調べさせてもらいました」
セバスの目がきらりと光った時、カトレアは気づいた。執事は全て知っていると。
「…お嬢様、その奴隷を譲り受けた貴族様はラルド家ですよね?」
下品な笑みを浮かべるでっぷりとした貴族の顔が浮かんだ。当時のやり取りをどうやって調べたのだろうか。やはりセバスはくえない男だ。
「私が代理人としてラルド家と連絡を取っています。正規の手続きを踏んでその奴隷をお返ししましょう。つまり全て元通りというわけです」
下劣な精神を持った貴族にクロを返す? ありえない。あの貴族の手に渡ればクロはどんな痛い目に合うか想像に易い。
「私は認めてないわ。少し勝手が過ぎるんじゃなくて?」
「旦那様の代わりにお屋敷の管理と責任を任されているのがこの不肖セバスです。私に全てお任せくだされば、タンザナイト家は家名を汚されることはありません」
セバスが意見を変えることはない。悔しいことに口もうまいから精神的な攻撃もしてくる。本当に嫌なやつだ。まるでネチネチネチネチと暗闇が侵食してくる感覚。不愉快でたまらない。我慢の限界だ。
「だから、何なのよ?!お父様の一人娘のこの私が許可を出していないわ!!!クロは私のものよ!」
筋金入りのわがままお嬢様がクロを手放すはずがない。
「もういいかげんにしてよ!!」
カトレアの大声が部屋に響く。驚いたことに彼女の硝子のように繊細な瞳から涙がポロポロ溢れていた。