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怪しい女店主と2人きりにされてしまったクロ。とにかく早く切り上げるほかない。クロは採寸しやすいようにすぐに上のシャツを脱いだ。
女店主もまた無言でメジャーを取り出す。重苦しい空気が部屋を包んだ。
「…あんた、背中に大きな傷があるね。どこでつけた傷だい?」
最初に切り出したのは、女店主だ。
「……」
「なんだい。ご主人様がいないと何にも喋んないのかい?随分忠犬なんだね」
「……っ」
「おお、こわいこわい」
大袈裟に怯えたような動きをする女店主。初対面だが、クロは1日でこの女を嫌いになった。
「まあ、あの子がいても仏頂面で喋んないのは変わらないか。それにしても、珍しい髪色だねえ。黒色の髪はこの国では見たことがないよ。隣の国の王妃様が確か黒髪の美人だったのは覚えてるんだけどねえ」
「…………」
「おや?おやおやおやあ?……そういや、あんたの目の色ってどこかで見たことあったと思ったんだが、もしかして…」
「…………ちっ」
ドン!!!
クロは近くにあった古い椅子を蹴り飛ばした。勢いよく飛ばされた椅子は、老朽のためか見事に折れてしまう。
「あああああああああ!!!!私が!!!!お気に入りの椅子がああああああああああ」
どこか余裕のある女店主の顔が崩れた瞬間だった。意外にも彼女はモノを長く使うタイプらしい。
「……」
「ちょっと!!!なんてことしてくれたんだいあんた!!昼寝用に使ってたのに!!!」
クロは無視を決め込んだ。完全に女店主に腹がたったようである。
扉が勢いよく開いた。
「な、何?!叫び声が聞こえたんだけどーーってきゃ!」
顔を出したカトレアは、機嫌の悪いクロと目が合い、慌てて顔を両手で隠した。
「ご、ごめんなさい!そんなつもりはなかったのよ!」
カトレアにも恥じらいがあったようだ。2人が何か言いかける前に逃げるように扉の向こう側に消えた。
「……」
カトレアがいなくなった空虚の部分を無言で見つめる2人。採寸のため上半身裸になっている少年と壊れた椅子とメジャーを抱える女は、力が抜けたようにため息をついた。
「…私もこれでもプロだ。あんたの素性がどうであろうと仕事は真っ当させてもらうよ」
「……」
「まあ、椅子の分も後であのお嬢ちゃんに上乗せして請求するけどね」
そうして採寸はすみやかに粛々と進行されるのであった。