表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

水売りは、暑い夏にやってくる

作者: しゅうらい

「あぁ……今日も暑いなぁ……」

 暑い日が続く夏の午後、一人の男が大通りを歩いていた。

 藤堂あつし。それが男の名前である。

 そして、無職であり、ただいま仕事を探している最中なのだ。

「はぁ……いい仕事ないかなぁ……」

 藤堂がため息をついていると、向こうから歩いてくる人影を見つける。

 だが、違和感があった。

 なぜなら、この暑い日に黒いローブを着て、フードを被っていたからである。

 しかも、街中には珍しい荷車を引いていたのだ。

「みずー、みずー、水はいらんかねー。おいしいですよー」

 水売りの声はよく響き、周囲にいた人たちが振り向く。

「なんだろう……急にのどが渇いてきたような……」

 藤堂は、ひかれるように水売りに近づいていく。

「いらっしゃい。おいしい水はいかがですか?」

「よかった。ちょうどのどが渇いていたんだよ。いくらかな」

「お代はいりません。さぁ、どうぞ」

「えっ、タダなんてラッキー!」

 そして、差し出されたペットボトルの水を、藤堂はその場で飲んでいく。

「おやおや、いい飲みっぷりだねぇ」

 鼻の所までフードを被っていた水売りだが、口元に笑みを浮かべていたため、喜んでいるのがわかる。

 藤堂は半分まで飲むと、最高の笑顔になった。

「ありがとう、なんだか元気になったよ!」

「それは、ようございました」

 水売りはそう言うと、小さくお辞儀をした。

 そして、方向転換をし、また荷車を引き歩きだす。

 それを見送った藤堂は、暑い日差しにクラっとする。

「やばっ……そろそろ家に帰ろう」

 そう言って藤堂は、急いで家に帰った。

 家に着くと、汗を流すため風呂へと向かう。

 そして早めの夕食を終え、寝室に向かった。

 そのまま眠っていると、ある夢を見た。

 夢の中の藤堂は、夜の街を歩いていた。

 ふと空を見上げると、大きくて丸い月が見えた。

 だが、その瞬間、藤堂の体は獣の姿に変わる。

 それはまるで、狼の姿だった。

「ガァーッ!」

 獣になった藤堂は雄たけびを上げ、街を破壊していったのだ。

 そこで、藤堂は目を覚ます。

 勢いよく起き上がり、自分の手を確認した。

「よっ、よかった……なんともない」

 しかし、それから毎晩、藤堂はあの悪夢にうなされていた。

 自分が獣になって、街を破壊する夢。

 やがて、藤堂は寝不足になり、外にも出なくなっていた。

「働かなくちゃならないのに、やる気が出ない……」

 それもこれも、あの夢のせいだと、藤堂は考えていた。

 そして、ネットであの水売りのことを調べてみた。

 すると、すぐにヒットした。

「けっこう、目撃情報が多いな。えっと……今はこの近くで目撃されているな」

 藤堂は調べるのをやめ、急いで家を出る。

そして、最後に目撃された場所に着く。

 だが、もう日は暮れており、空は暗くなろうとしていた。

「はぁ……ここか……」

 着いたそこはボロボロの空き家で、そばには井戸があった。

 藤堂は息を整え、大声で水売りを呼んだ。

「おい、ここにいるんだろ。出てこーい!」

「おやおや、なにを騒いでいるので?」

「あんたにもらった水を飲んでから、おかしな夢を見るんだ」

「ほぅ、どんな夢でしょうか」

「狂暴な獣の夢だ。わかって売っていただろう!」

「はて、なんのことでしょうなぁ」

「とぼけやがって!」

「それにしても、今日はいい月ですねぇ」

「月?」

 水売りが上を指さし、藤堂も見上げる。

 その月を視界に入れた瞬間、藤堂の体が変化する。

 やがて獣の姿になり、我を忘れたように水売りに突進していく。

 しかし、素早い蹴りで、井戸の方に蹴り飛ばされる。

 そして、そのまま井戸の底に落ちていった。

「まったく……私に敵うと思ったのかねぇ」

 水売りは井戸のそばまでいくと、ゆっくりふたを閉めた。

 仲では、獣の藤堂が溺れていた。

 ずっともがくが、井戸は深く足がつかないでいた。

 すると、突然水が光りだし、藤堂の体を吸収していく。

 しばらくして、藤堂の体は、水に吸収された。

「さてさて、今日も売りにいくとするかねぇ」

 次の日の朝、水売りは井戸から水をくみあげる。

 そして、大量のペットボトルが準備できると、荷車を引いていく。

「みずー、みずー、水はいらんかねー。おいしい水ですよー」

「おぉ、一本売ってくれ」

「はい、どうぞ」

 その頃、井戸からは獣の遠吠えが響いていたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 日本なら水は安心で無料なら……といったところをついた怖い話でしたね。  ただより怖いものはなし!  しゅうらい様 ちょい怖ホラー、ありがとうございました☆
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ