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焦がれたトーストの匂い
目覚ましを止めるのが一秒遅れただけで、朝はもう負け戦だった。
寝癖はなおらず、トーストは焦げて、駅の階段で小指をぶつけた。
「……はあ」
コンビニで買ったおにぎりを片手に、自転車のカゴに鞄を突っ込む。
大学へ向かう道のり、空は気持ちが悪いくらい晴れていた。
正直、うまくいってるとは言えない。
第一志望じゃなかった大学、友達の輪にも入れず、
やりたいことも、夢も、まだ見えない。
「……何やってんだ、俺」
でも、そんなとき。
ポケットの中の紙切れが指先にふれた。
それは、大学に入る前――
高校の卒業式の日にもらった、小さなメモだった。
「君は、自分の好きなことに向かって歩く人になってください」
担任の先生がくれた、たった一行のメッセージ。
好きなこと。
そんなもの、わかるわけない。
でも、その言葉だけが、今もずっと、僕を前へ押してくれている気がする。