3話
ふわっふわのベッドに、俺は深く沈み込んでいた。
「あ〜……最高。これ以上ないわ……」
天井の穴から差し込む陽光が、ちょうどいい温度で頬を撫でる。
空気は清浄、気温は完璧、静寂も文句なし。
世界が俺を甘やかすために存在しているようだった。
「はぁ〜……働かないって、素晴らしい……!」
腕を広げて、ぐでぇ〜っと寝転がる。
そのまま軽く寝返りを打って、毛布に顔を埋める。
社会?
労働?
努力?
クソ喰らえだ。
ここは、俺だけの楽園。
誰にも邪魔されない、完璧なニートの聖域。
……のはずだった。
ギギ……ガタッ。
微かな振動。
「ん……?」
一瞬、耳を疑った。
いや、俺には【防音機能】があるはずだ。
外の音は一切シャットアウトされてるはずだ。
なのに、かすかに聞こえた、木が軋むような音。
「いやいや、気のせい気のせい……」
無理やり布団に頭を押し込む。
俺は知らない。何も聞こえない。
──ドンッ!!
「うぐっ!!?」
今度は完全に、
小屋全体が揺れた。
「うおおお!? な、なにごと!?」
飛び起きる俺。
……とは言っても、ベッドの上でゴロゴロしながら身を起こしただけだが。
外で何かが暴れている気配。
でも絶対に、絶対に外には出たくない。
なぜなら、俺は――
「異世界自宅警備員だからな!!!」
堂々と、胸を張って叫んだ。
布団をかぶり直しながら、
空中ウィンドウを呼び出す。
【拠点スキルメニュー】
・防衛機能強化 → 警備モード起動可能
「よっしゃあああ!!!」
即決。ノータイム。
パチッと【警備モード起動】をタップした。
次の瞬間――
ゴォォォォォ……!!!
低く唸るような音が小屋全体を包み、
壁に青白い光のラインが走る。
ドアには重厚な鉄のバーが何本も走り、
窓には自動展開型の分厚いシャッターが降りた。
「おおお、カッコよすぎるだろ!!!」
思わず布団の中から叫ぶ。
見た目はボロ小屋なのに、
中身は近未来の要塞。
マジでギャップ萌えだ。
その時、
ドンドンッ!とドアを叩く音。
続いて、ウィンドウに新たな表示。
《侵入対象:魔物種(スライム系)》
《危険度:極低》
《自動撃退モード起動中》
「スライムかよ!!!」
盛大にズッコケる俺。
あの、ぷよぷよしたやつか?
人畜無害の代名詞みたいなやつじゃねぇか!
……とはいえ、油断は禁物だ。
異世界スライムだし、もしかしたら爆発するとか毒吐くとかあるかもしれない。
いや、知らんけど。
知らんし調べたくもないけど。
だから俺は、布団をぎゅっと抱きしめた。
「頼むぞ、俺の拠点……!」
息を呑み、待つ。
すると――
ピコンッ、と軽やかな音。
《撃退モード作動》
外壁に設置されていた魔法陣が淡く光り、
そこからバシュッ!!と光弾が発射された。
外から、
パァン!!という乾いた破裂音。
そして、静寂。
ウィンドウに、冷静なシステムメッセージが表示される。
《侵入対象 撃退完了》
「……勝った……!!」
俺は、ベッドの上でガッツポーズを作った。
布団から一歩も出ずに、
寝ながら敵を撃退。
これぞ、
異世界自宅警備員の真骨頂!!!
ふわぁぁ……。
毛布に顔をうずめたまま、
俺は深い欠伸をかました。
「寝ながら防衛成功……。
やっぱ俺、異世界適性あるわ……!」
ドヤ顔をキメながら、
俺は空中に浮かぶウィンドウを開く。
《拠点防衛モード:詳細》
【基本機能】
・自動迎撃(低級魔物対応)
・バリア展開(中規模攻撃まで耐久可能)
・ドア・窓・床ロック(侵入阻止)
【拡張可能項目】
・タレット設置【30P】
・バリア耐久強化【20P】
・侵入検知センサー精度向上【15P】
・自動対人防衛(高コスト)
「おぉぉぉぉぉ……」
ゴロゴロとベッドの上を転がりながら感動する俺。
つまり、
ポイントさえ溜まれば、
俺の小屋はどんどん強くなるってわけだ。
「ふふふ……完璧すぎる……!」
もはや小屋じゃない。
要塞だ。
いや、王国だ。
いや、国家だ。
「これ、最終的に国家作れるんじゃね?」
無職、国家元首へ。
胸熱展開だ。
──と、妄想が暴走しかけたところで、
俺はふと気付いた。
「……タレットって、アレか? 自動で弾飛ばすやつ?」
考えれば考えるほどワクワクが止まらない。
小屋の外にスライムが来たら、
自動でバシュッ!って迎撃してくれるんだろ?
魔物が来ても、
兵士が来ても、
俺はベッドで寝たまま、ドヤ顔できるわけだ。
「働かないで勝つ……! これぞ異世界の勝ち組……!」
うっとりしながら、
さらにウィンドウをスクロールする。
《拠点拡張プラン提案》
・食糧自給モジュール(小型畑つき)【25P】
・シャワールーム設置【20P】
・寝ながらアイテム倉庫【15P】
「ぬおおおおお、全部欲しい!!!」
両手をバタバタさせながら、ベッドの上でジタバタする俺。
この拠点、
俺のニート生活を完全サポートするために存在してるとしか思えない。
「でもまあ、焦る必要はないか……」
のんびり寝て、
たまに強化して、
さらに寝る。
それで拠点が最強になっていくんだから、
急ぐ必要なんてない。
何せ、俺には無限の時間があるのだから。
「っくぅ〜〜〜……異世界最高かよ!!」
全力で毛布に包まりながら、
俺は小さくガッツポーズを作った。
「……はぁ〜……異世界って、本当に最高だなぁ……」
ベッドに埋もれながら、俺は心底思った。
寝ながら拠点防衛。
寝ながらポイント回復。
寝ながら拠点強化。
この世に、これ以上完璧なシステムがあるだろうか?
「だけど、だ……」
天井を見上げながら、ふと考える。
今はまだスライム一匹だった。
だが、今後もっと強い敵が来たら?
魔物の群れ。
盗賊団。
もしかしたら、国家軍だって来るかもしれない。
「……やっぱ、守りを固めるだけじゃ限界あるかもな」
俺は、ぐでぇ〜っと寝返りを打ち、毛布にくるまる。
外に出たくない。
働きたくない。
でも、快適なニート生活は絶対に守りたい。
「……そうだ。だったら、俺が国を作ればいいじゃん」
ポツリと呟いた。
国を作れば、誰にも文句を言われない。
国を作れば、外敵からも守れる。
国を作れば、堂々と寝ていられる!!
完璧すぎる発想に、思わずニヤリとする。
「よし、国作ろう」
決意も新たに、空中の拠点メニューをスクロールする。
【拠点拡張オプション】
・外壁超強化(ドラゴン級耐久)【100P】
・空間拡張(内部10倍)【80P】
・自動生活サポート(食事・掃除・洗濯フルオート)【120P】
・娯楽施設設置(映画・ゲーム・カラオケ完備)【70P】
「ぬおおお、夢が広がりまくりだろ!!!」
ベッドの上でバタバタと手足をバタつかせる。
室内プール!
温泉!
屋内釣り堀!
ミニ動物園!
ゲームセンター!
映画館!
全部、小屋の中に作る!!
しかも、完全自動管理!!
俺は寝転がったまま、全部享受するだけ!!!
「ぐふふ……これが真の文明ってやつか……」
さらに、拠点機能を妄想で拡張する。
【予定される超豪華設備案】
・ベッドに寝ながら食事オーダー(自動配達)
・寝たままベッドリモコンで拠点内操作
・勝手に掃除してくれるお掃除ゴーレム設置
「あぁぁぁ……一生ベッドから出たくねぇ……」
夢が膨らみすぎて、もはや顔がニヤけっぱなしだ。
だが、ここで俺の妄想はさらに加速する。
国家運営だって、寝ながらできるはずだ!
【国家運営計画】
・外交 → 寝たままメッセージ送信機能
・軍事 → 自動防衛システムの増強
・税収 → ゴロゴロしてたら勝手に集まる
「これぞ、真の異世界国家運営!!!」
寝転びながら外交し、
寝転びながら防衛し、
寝転びながら税金を得る。
もはや動く必要など、一切ない。
「ぐふふふふ……俺、もう人類の進化系じゃね?」
毛布に完全にくるまりながら、
俺は新時代の神にでもなったような気分だった。
そして、静かに決意する。
この小屋を、領地に。
この領地を、国家に。
そして、
世界をベッドの上から制覇する!!!
「っくぅ〜〜〜……異世界最高かよ!!!」
思わず、毛布の中でガッツポーズを作る俺。
だが、
そんなハイテンションも徐々に心地よい眠気に押され――
「……まずは……二度寝からだな……」
幸せなため息を吐きながら、
俺はふたたびぬくぬくの夢の中へと落ちていった。
異世界は、
今日も俺に優しい。