▽夜.
そんなことより私は機関銃と双眼鏡をテントの中に放り込んだ。
そしてお昼にいっしょにつくっておいた怪物の肉を良く煮込んだものを出して焼く準備をし始めることにした。
「あ…カイト、夕飯はできてるからそこの今日拾ってきたベンチにももんがと座ってて」
「ももんがじゃない!ジャダックだ」
子供みたいに騒いでいうジャダックに私ははいはいと軽く促し、肉を焼き始めた。
基本的に怪物たちは夜行動はしないのだ。夜はぐっすりと寝ている。早朝とともに怪物たちは動き出す。
「旨そうな匂いだな」
カイトはベンチにジャダックを座らせ、そのとなりに座ってそう言った。
「まあね。結構レアな怪物だったし」
ひょいとフライパン動かし肉をひっくり返して焼いているとカイトが両腕をベンチの背もたれの部分に置いて空を見上げながら言った。
「ああ…でもいつの日か人間が人間を喰う日は来るのかもしれないな」
「………うん」
それしか返す言葉はなかったんだろう。
本当に人間が人間を喰う日は来るのかもしれない…こんなご時世になってしまったから。
核爆弾が落下した周辺ではガスマスクや防護スーツを着けなくては死んでしまうし、現にも亡くなっている者はいるだろう。
こんな現状を神々たちが許すはずもないのは分かるな…。
ちくしょう…。
俺は空を見上げ、下唇を強く噛んだ。
「…カイト…」
しゅんとした表情を見せられ、俺も思わずつられてしゅんとした表情をしてしまった。
「なに、しょぼくれてんの貴方までさ」
笑いながら俺の目の前にきて肉を綺麗に盛ったお皿を差し出してきた。
「悪いな」
「別に大丈夫よ。ジャダックにもはい」
コトンとジャダックの目の前にお皿を置いてミクヤはそそくさとテントの中に入っていった。
「ミクヤー!飯はいらないのか?」
「いらない…」
ぼそっと聞こえるくらいの声でミクヤは返答してきた。
「そうか…食べたくなったら言えよ?」
「ありがと」
俺はミクヤの返事を聞いた後にすぐに肉をほおばりモグモグ食べた。
ジャダックはおいしそうに食べていた。こう見ていると肉を食べている肉食ももんがに見えてしまう。
よし…あだ名は…。
「おい、肉食ももんが」
「ごほっ」
ジャダックは食べていた肉を喉に詰まらせた様子で苦しそうにむせていた。
そして俺の方を睨み、肉食ももんがは言った。
「に、肉食ももんがとはなんだいっ!」
「いや、いくら何でも人間だったとはいえ肉を食べている肉食ももんがに見えるんだよな…」
そんなことを言う俺を見て肉食ももんが(ジャダック)は呆れたように笑った。
ももんがなのに表情はとても豊かであった。
俺はやはり人間から動物にされても表情は豊かなままとは凄いと思えた。
「肉食ももんがのジャダック…お前は何のために生きているんだ?」
ジャダックは食べていた肉を喉にまた詰まらせた様子で苦しそうにむせていた。
「カイト…いきなりどうしたんだよう」
「なんとなく、聞いてみたけだけど?」
ジャダックは「その言い方気に食わないなあ」と言いつつもゆっくりと話し出した。
「おいらが生きている理由は、この世界に生き残るためだ!」
「最もらしい答えだな」
「だろい!」
ももんがのくせにテンション高いな…。思わず苦笑いだ。
まあこんなムードメーカーがいてもいいかもしれないな。
「なあお前…仲間になってみるか?」
「え…?」
ジャダックは驚いた表情でこちらを見ていた。俺は真剣にこいつの目を見ていた。
こいつの目は今までたくさん闘ってきた実力者とすぐにわかった。
“生き残るためさ”
俺とミクヤもそうだ。
そしてこいつの装備の傷つき方が凄まじかった。ももんがにされる前はきっとかなりの実力者だったんだろう。
「…ホントにいいのかあ?」
間抜けた声で言うジャダックを見て俺は軽く笑った。
そしてこう答えた。
「ああ、二人+動物はなかなかいいしな」
「…なんだかむかつくヤツだなあ」
「ははっ、冗談だよ。お前の装備の傷つき方が凄まじくてな、なかなかやるやつだなと思ったんだよ」
そう言うとジャダックは照れ臭そうに頭をかいて小さく「あんがとうな」と呟いた。