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番外編1 兄さんと氷の魔女

物心ついたときから、僕、ルーカス・フレイムハートが一番よく見ていた景色は部屋の天井だった。時には、病院の天井。少し歩くと、息がヒューヒューと鳴り始め、胸が苦しくなる。それが僕の病気だった。強い発作が起きると、それは死にたくなるほどの苦しみで、僕はその恐怖に怯えながらベッドの上で過ごしてきた。


そんな僕の希望は、大好きな兄さんだった。火の魔法を使い、錬金術の研究をしている立派な兄さんで、僕の誇りだった。父さんの研究を引き継ぎ、この地方の農業生産を効率化するために働いている。僕も本当は手伝いたかったけど、この体では無理だってわかっていた。


僕が16歳になった年、家族にとって大きな試練が訪れた。国からの命令で、16歳になった長男以外の男性は軍役に従事しなければならなくなった。兄さんが家族会議で自ら代わりを名乗り出たとき、僕は絶望した。僕がこの家からいなくなれば、兄さんは行かなくて済むはずだと思った。僕は泣きながら、「僕がいなくなればいい」と言ったけど、兄さんは困った顔でこう言った。


「ルーカス、お前を愛してるから、俺は行くんだ。だからそんなことを言うな。」


兄さんの出発の日、僕は体調を崩して起き上がることもできず、兄さんを見送ることができなかった。ベッドの中で発作に苦しみながら、兄さんが無事でいるように泣きながら祈った。



戦争が終わり、兄さんが無事帰ってくると聞いたとき、僕は嬉しくてたまらなかった。この3年で、僕の体は少しずつ良くなり、屋敷の中を歩けるくらいにはなっていた。兄さんが帰ってきたら、研究を手伝いたいとずっと思っていた。


兄さんが帰還してしばらくして、兄さんのもとに時々研究設備を借りに訪れる女の子がいると聞いた。使用人が話すところによると、その子は小柄で色素の薄い髪と淡い青い瞳の持ち主で、そして氷の魔法を使うということだった。正直、氷の魔法使いが研究なんてできるのかなと疑問に思ったけど、兄さんが許可しているなら僕が何か言うことはない。


その女の子に初めて会ったのは、ある日の発作がきっかけだった。それはこれまでで一番苦しいもので、何時間経っても治まらず、僕は「今度こそ死ぬのかな」なんて考えた。ぼんやりした視界に兄さんの顔が映り、次いで何かマスクのようなものを被せられた。それをつけているうちに、少しずつ呼吸が楽になり、僕は疲れた体を眠りに委ねた。


あとで聞くと、あのマスクの治療を作ったのがその女の子、シェリー・フロストだったらしい。僕は無理を言って兄さんに頼み、彼女にお礼を言う機会を作ってもらった。


初めて会った彼女は、使用人の話通り、まるで氷の妖精のようだった。僕がお礼を言うと、彼女は小さな体を少し縮めて、ほんのり目元を赤くして静かにお辞儀をした。その姿が可愛らしくて、僕は思わず恋に落ちそうになった。でも、ふと兄さんの様子を見て思いとどまった。兄さんが彼女を見る目が、ほんの少しだけど特別なものに見えたからだ。


酸素の補助装置ができたおかげで、僕は行動範囲が少し広がった。兄さんとシェリーさんが研究室で一緒に仕事をしているところに行って、いろいろ質問をした。兄さんは嬉しそうに、シェリーさんは少し困ったような顔で僕に説明をしてくれた。その二人が一緒にいる空気は、僕にとっても心地よくて、幸せな時間だった。


その幸せが、薄氷の上に立っているようなものだとは、思ってもいなかった。

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