孤独な少年
六時間目の授業が終わり、僕は一人切りでトボトボと家に帰るところだ。
一緒に帰ってくれる友達は一人もいないんだ、僕はみんなに無視をされているんだよ、僕がのろまでオドオドしているからと、みんなが言うんだ。
自分ではそんなことは無いと思っている、ちょっぴり人より遅いだけだ。
その遅いのをどうしたら良いのか、僕には良く分からない、僕なりに早くしようとしたんだ、少しは早くなったと思う。
これでもだめなら、もう僕に構わないでほっといてよ。
後から頭をたたくとか、背中をけるのは止めてほしい、と強く思う。
一緒に帰ってくれなくても、平気でもあるんだよ。
僕は僕で生きていくだけだ、僕だけの楽しみもあるんだ。
楽しい事を思い切り考えて歩くと、僕は時間を超えられるんだ、〈ハッ〉と気づいたら、すっごく家の近くにいたことがある、〈アッ〉と言う間に、長い距離を歩けたってことだよね。
僕はすっごく吃驚して、暗くなるまで、そこに立っていたと思う。
それはそうだろう、時間を超える経験をしたんだから、その反動で動けなくなるのは当たり前のことだ。
瞬間移動をしたこともある、恐竜の事を考えながら歩いていた時に、〈ハッ〉と気づいたら目の前に黄色の恐竜がいたんだ、大きな口を開けて僕を飲み込もうとしていたよ。
「うわぁ」と叫んで尻もちをついたら、それは僕も知っている公園の遊具だったんだ。
僕の悲鳴を聞いて低学年の子が〈ゲラゲラ〉と笑っていたので、僕は急いで公園から逃げるように離れたよ、かなり恥ずかしかったんだ。
でも瞬間移動をしたのは本当の事だ、〈アッ〉と言う間に公園に行けたんだから。
僕はすっごいと思って家に帰っていった、恥ずかしさはどこかへ飛んでいき、感動だけが残ったんだ。
その夜は興奮して、なかなか眠れなかったな。
ドラゴンを退治する勇者の冒険を、歩きながら想像していると、見たこともない小さな道に出てしまった。
あれ、ここはどこなんだろう、こんな道は学校と家に間には無かったはずだ。
小さな道の左右には、コケが厚くついている塀がずっと続いているだけだ。
暗くて不気味で、妖怪なんかが出来てきそうで怖くなってくる、とても心配になってきて、僕は周りをキョロキョロと見渡した。
平気だと言っていたけど、とても心細くなってしまったんだ。
「誰かいないの」、そっとつぶやいてしまう。
そしたら、白い子犬が「わん」と吠えて、駆けてくるのが見えてきたんだ、ふふっ、すっごく良い子だよ。
そこで僕はひらめいた、これはアレだ。
さてはまた瞬間移動をしたんだな、おまけに時間を超えたのかもな。
それならこの道を探検するしかない、僕に与えられたクエストなんだ、クリアーしたら勇者に認定してもらえるぞ。
それにこの子犬は〈狼王ロボ〉の子供に間違いないぞ、僕と冒険を始めるために現れたんだ、そうに決まっている。
白い毛はツヤツヤだし、顔もちょっぴり強そうだ、鋭いキバも生えているんだから、子犬じゃなくて狼の子供だと思うな。
僕の手をペロペロとなめるから、お腹をワシャワシャとしてあげたら、「ハァ」「ハァ」言って喜んでいるのが、めっちゃ可愛いな、名前は〈狼王子コロボ〉にしよう。
女の子だったら、ゴメンなさい。
「〈コロボ〉、さあ冒険へ行くぞ。 ついて来い」
「わん」
塀の間を真直ぐに歩いて行くと、僕の前方を偵察するためだろう走りまくっていた〈コロボ〉が、金色に光るカブト虫をくわえて持ってきてくれた。
おぉー、これはお宝だよ、黄金虫ってヤツか。
〈コロボ〉はやっぱり〈狼王〉の子供だけはあるな。
残念だけど、黄金虫はちっとも動かなかったけど、僕はまたお腹をワシャワシャとしてあげた、〈コロボ〉はまた「ハァ」「ハァ」と言って喜んでくれたようで、僕もすっごく嬉しい。
また塀の間をズンズンと進んで行くと、おっと、駄菓子屋さんが見えてきたじゃないか、こんな所でお店をやってて売れるのかな、とても心配になってしまう。
何か買ってあげたいけど、僕はお金を持っていないんだ。
ちょっとだけ持っていたお金は、お昼休みに「貸せよ」と言われて盗られてしまったんだ、貸しては嘘なんだ、返してもらったことは一度も無い。
「坊や、何か買っておくれよ」
お店の前を通る時に、模様がクルクル変わる服を着た、お店のおばさんが僕に声をかけてきた、僕は目が回りそうなので服を見ないようにして答える。
「ごめんなさい。 そうしたいんだけど、お金を持っていないんだよ」
「ふふっ、なに言っているのよ。 お宝を持っているじゃない」
お店のおばさんは、僕が持っている黄金虫に目をつけたらしい、僕はすっごく迷ったけど、黄金虫をおばさんに渡してあげることにした。
本当は持って帰りたかったんだ、だって黄金に光っているカブト虫なんだよ、珍しってもんじゃないと思う、けどなにか買ってあげないとお店が困ると考えて決心したんだ。
こんな場所では、僕の他に買う人なんていないからね。
「坊や、その子には、この恐竜の骨が良いわね、まだお肉もかなりついているわよ。 それと夜空の星を固めた金平糖と、特別大大サービスでこの〈龍の吹き戻し〉と交換してあげるわ」
「ありがとう」
僕はお店に置いてある、見たことも無い不思議なお菓子を食べてみたかったんだけど、〈コロボ〉がもう骨にかじりついてしまっていたんだ、よだれもついているし、他の物とは言えないよな。
残念だけど金平糖とピロピロ笛で我慢するか、〈コロボ〉は怖いくらいにガツガツかじっているから、すっごく好きな味なんだろう。
僕も一つ金平糖を口に中へ放り込んだら、とんでもない事になってしまった。
パチパチと体が弾けて空へ昇っていたんだ、銀河まで飛んで赤く燃える星や青く凍った星の間を、光速でバチバチしてしまっているんだ、これは刺激的過ぎると思ったら、元のお店の前に立っていた。
ぷはぁ、吃驚したよ、この金平糖の材料は本当に夜空の星だったんだ。
「ふふっ、種族によって合う合わないがあるから、そのお菓子が坊やには一番安全なんだよ」
「はぁー、そうなんですか。 僕はもう行きますね。 また寄りますね」
「ふふっ、または無いんだよ。 真直ぐに進むのを忘れないでね」
〈また〉は無いか、そう言えばお店のおばさんの足が、一本しか無かったような気もしたな。