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琵琶湖の歌声

明治時代の終わり頃、琵琶湖畔の小さな村に、美しい声の持ち主である少女・小夜がいた。彼女の歌声は、まるで天使のようだと村人たちに評判だった。しかし、小夜には秘密があった。彼女は生まれつき目が見えなかったのだ。


ある日、都から来た音楽家が小夜の歌声を聞き、彼女を都へ連れて行こうとした。「あなたの才能は、もっと大きな舞台で輝くべきだ」と。


しかし、小夜は迷っていた。生まれ育った村と琵琶湖を離れることに不安を感じていたのだ。


決断の日、小夜は最後に琵琶湖の岸辺に立った。そこで彼女は、不思議な声を聞いた。


「小夜、あなたの歌声は、この湖の魂なのです」


驚いた小夜が尋ねると、その声の主は、琵琶湖に住む古い神様だと名乗った。


神様は小夜に告げた。「あなたの歌声は、この土地と湖の記憶を宿しています。都に行けば、確かに多くの人々を魅了するでしょう。しかし、この地を離れれば、あなたの歌は魂を失ってしまうのです」


小夜は悩んだ。彼女の才能は、本当にこの土地と結びついているのだろうか。それとも、これは単なる迷信なのだろうか。


その夜、小夜は決断を下した。彼女は音楽家に、村に残ることを告げた。


それから数年が過ぎた。小夜の評判は次第に広がり、多くの人々が彼女の歌声を聞くために村を訪れるようになった。彼女の歌は、琵琶湖の四季、村人たちの喜びや悲しみ、そして土地の歴史を織り込んだものだった。


ある夏の夜、小夜が湖畔で歌っていると、不思議なことが起こった。彼女の歌声に合わせるように、湖面が光り始めたのだ。そして、湖から無数の光の粒が立ち昇り、小夜の周りを舞い始めた。


村人たちは驚愕した。その光の粒は、かつてこの地に住んでいた人々の魂だったのだ。小夜の歌声が、彼らの眠りを覚ましたのである。


光の魂たちは、小夜の周りで美しい舞を披露した。そして、彼女の目に優しく触れた。


その瞬間、小夜の目から光が溢れ出た。彼女は初めて、この世界の色彩を目にしたのだ。


「なんて美しいのでしょう」小夜は涙を流しながら言った。


それ以来、小夜の歌声はさらに深みを増し、聴く者の心の奥底に届くようになった。人々は、彼女の歌を聴くと、自分たちのルーツと大地とのつながりを感じるという。


小夜は生涯、この村で歌い続けた。そして今も、静かな夜に琵琶湖を訪れると、どこからともなく美しい歌声が聞こえてくることがあるという。それは、小夜の魂が今もなお、この土地と湖を見守り続けている証なのかもしれない。

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