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霧の花嫁

明治時代初期、霧深い山村に一人の若い男、春樹がいた。彼は都会で学問を修めた後、故郷に戻り、村の発展に尽力していた。


ある秋の夜、春樹は霧に包まれた山道を歩いていた。そこで彼は、白無垢姿の美しい女性と出会う。女性は途方に暮れた様子で、春樹に助けを求めた。


「私は花嫁なのです。でも、道に迷ってしまいました」


春樹は彼女を村まで送ろうとしたが、不思議なことに村に着くと、女性の姿は霧の中に消えていた。


それから、春樹は毎晩のように霧の中でその女性と出会うようになった。二人は語り合い、次第に惹かれ合っていく。女性は自分の名を「霧子」と名乗った。


しかし、村の長老は春樹に警告した。「それは人魂(ひとだま)だ。近づくと命を奪われるぞ」


春樹は悩んだ。霧子との出会いは幻なのか、それとも現実なのか。彼の心は揺れ動いた。


ある夜、春樹は霧子に真実を問いただした。霧子は悲しげに語り始めた。


「私は百年前、この村で花嫁として嫁ぐ途中、山賊に襲われ命を落としました。それ以来、私の魂はこの霧の中をさまよい続けているのです」


春樹は決意した。「僕が君を本来の場所に導こう」


二人は手を取り合い、霧の中を進んだ。やがて、山の頂上に着くと、そこには古い祠があった。


「ここが、私が向かっていた場所」霧子の姿が次第に輝き始める。


春樹は悲しみと共に、霧子を祠に導いた。霧子は春樹に最後の言葉を告げた。


「あなたの優しさのおかげで、私は安らかに眠ることができます。どうか、幸せに生きてください」


そう言うと、霧子の姿は光となって、祠の中に吸い込まれていった。


その瞬間、村を覆っていた濃い霧が晴れ、明るい月光が山々を照らした。


それ以来、村の霧は薄くなり、人々は霧を恐れなくなった。春樹は村の発展に尽力し続け、やがて村は豊かになっていった。


彼は生涯独身を通したが、晩年、「霧の花嫁」の物語を子どもたちに語り聞かせるのを楽しみにしていた。


そして今も、この村に深い霧が立ち込める夜には、白無垢姿の美しい女性の幻が見えるという。人々は彼女を「霧の花嫁」と呼び、彼女の姿を見ることができれば幸せが訪れると信じている。

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