祇園の舞姫
明治初期の祇園、舞妓・小菊の舞は見る者全てを魅了したが、その足は不治の病に蝕まれていた。恋人である画家の一郎は、彼女の将来を案じ、舞を辞めて共に生きようと懇願したが、小菊にとって舞を失うことは死に等しかった。
絶望する小菊の前に、一人の老婆が現れた。「お前の舞への情熱、見事なものよ。わらわが、お前に最後の舞を授けよう」
老婆の目は、小菊の才能への羨望と、暗い嫉妬で濁っていた。彼女はかつて祇園で名を馳せた舞妓の亡霊であり、小菊の若さと才能を喰らうことで、再びこの世に栄光を現そうと企んでいたのだ。
一郎は、小菊が日に日に人間離れした美しさを増していくことに不安を覚え、老婆の正体を突き止めた。彼は小菊を止めようとしたが、彼女の意志は固かった。
「これが私の命の燃やし方。止めることは誰にもできない」
最後の舞台の日、一郎は客席から祈るように彼女を見守った。小菊が舞い始めると、舞台には老婆の怨霊が姿を現し、彼女の魂を奪おうと絡みつくように舞った。それは、美と怨念がぶつかり合う、凄絶な舞の対決だった。
小菊は、一郎の愛を心の支えに、最後の力を振り絞った。彼女の舞は、もはや技芸ではなかった。怨霊の憎しみを浄化し、その魂を鎮めるための、鎮魂の祈りそのものだった。
舞が最高潮に達した瞬間、老婆の怨霊は浄化され、光となって消えた。同時に、小菊の体もまた、力を使い果たして桜の花びらのように散っていった。
彼女は命を落としたが、その魂は祇園の地を守る存在へと昇華した。一郎は生涯をかけて、怨霊を浄化し伝説となった「最後の舞」を描き続けた。彼の絵を見る者は、その美しさの中に、愛する者を守るために自らを犠牲にした舞姫の、崇高な魂を感じるという。




