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里見の狐火

明治時代中期、千葉の里見の地に、古い城跡を研究する若き歴史学者・源治がやってきた。里見氏の栄華と没落の歴史に魅せられた源治は、城跡に眠る秘密を解き明かそうとしていた。


地元の古老・佐之助は、源治に警告した。「満月の夜、城跡に近づいてはならぬ。狐火が出て、人を惑わすという」しかし、合理主義者の源治は、そんな言い伝えを迷信だと一笑に付した。


ある満月の夜、源治は城跡の調査に出かけた。月明かりに照らされた石垣の間を歩いていると、突如として青白い火の玉が現れた。それは、ゆらゆらと揺れながら城跡の奥へと源治を誘うかのように動いていく。


好奇心に駆られた源治は、その狐火を追いかけた。気がつくと、彼は今まで見たことのない石室に立っていた。そこには、古い巻物が置かれていた。


源治が巻物に手を伸ばした瞬間、部屋中が強い光に包まれた。目を開けると、そこは戦国時代の里見城だった。甲冑をまとった武士たちが行き交い、庭では華やかな宴が催されている。


驚く源治の前に、美しい着物を纏った女性が現れた。「私は里見氏最後の当主の娘。あなたに、我が家の真実を伝えねばならない」


女性は源治に、里見氏の栄華と没落の真相を語り始めた。それは歴史書に記された内容とは大きく異なっていた。裏切りと陰謀、そして家臣たちの忠誠と犠牲の物語だった。


「我が家の名誉を守るため、真実は隠されてきた。しかし、今こそそれを明かす時が来たのです」と女性は言った。


話を聞き終えた源治が、感動と驚きで言葉を失っていると、突如として城内が騒がしくなった。「敵襲だ!」という叫び声が聞こえる。


女性は慌てた様子で源治に言った。「もう時間がありません。この巻物を。これに全てが記されています」


源治が巻物を受け取った瞬間、周囲の景色がぼやけ始めた。気がつくと、彼は元の石室に戻っていた。手には確かに古い巻物が握られていた。


城跡を出た源治は、すぐに宿に戻り巻物を開いた。しかし、そこに書かれていたのは、彼が今まさに体験したはずの物語だった。最後のページには、「歴史は勝者によって書かれるが、真実は時を超えて語り継がれる」という言葉が記されていた。


それ以来、源治は里見の歴史研究に生涯を捧げた。彼の著した本は、従来の定説を覆す斬新な内容で歴史学会に衝撃を与えた。批判も多かったが、彼の説は次第に支持を集めていった。


今でも、満月の夜に里見城跡を訪れると、青白い狐火が見えることがあるという。それは、歴史の真実を守る里見氏の魂なのかもしれない。そして、その火に導かれし者だけが、過去の扉を開く鍵を手に入れることができるのだと言われている。

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