1 クランクアップ
翌日のトップニュースは誤認逮捕の件が霞んでしまうくらいに、「風間縁 事務所を解雇」が飛び交った。ただでさえウェブドラマが誤認逮捕の件で注目されていたのに、そんなことがあったら一体何があったんだと騒ぐのは当たり前だ。
俳優にとっては致命的な、未成年の女の子に性行為を強要したというような内容がネットニュースに溢れていたけど。驚いたことになんと風間さんはすぐに記者会見を開いたのだ。そりゃ事務所辞めたから自分で会見開くよな。
記者からの悪質な質問にも冷静に対応するその姿に、世論は一気に風間さんの味方となる。相変わらず人の心を動かす喋り方や対応がうまい人だ。事務所はノーコメントなので風間さんにばかり注目が集まっている。
そんな中で作品に罪は無いから完成しているものはどんどんアップロードしていきます、とウェブで告知を出したものだからそれはもう熱狂的に盛り上がった。
薄汚いことをしなくてもこんなに人の心を動かすことができるのに。俺たちは一体何をやってるんだって感じだ。ウェブのニュースを飛ばし読みした火男さんが笑いながらタブレットを閉じた。
「いやはや、天才という言葉さえ褒め言葉にならないねこの人は。ウェブラジオいつからだっけ?」
「前倒しして今日の夜には流します。二話と三話を同時にアップロード、これは明日の夜」
第一話で犯人こいつなんじゃないかという憶測が立つような、含みのある終わり方をしている。そして誰こいつ? というポジションの俺がウェブラジオに出たら、これまたいろいろな推測が飛ぶ。この人ドラマでてるの? 芸能人? それともただのスタッフ? 風間さんの知り合いなの? そんな感じのSNSの投稿が溢れている。トレンドワードがほぼ全てドラマや風間さんに関することになっているのはさすがだ。
誤認逮捕された奴がどんなポジションで撮影をしているのかはまだ明かしていないから、テレビのニュースでさえこの話題を取り上げているくらいだ。
「多少黒猫の情報操作と活動があったにしても、すごい騒ぎになってきましたね」
「風間縁の立ち上げたドラマに注目させることで、いろんな奴らがいろんな処理してる最中だからな今。とりあえず今後の事だが、今働いている会社は次の満期契約までそのままだ。この先も普通の仕事は今まで通りやっていい。俺から入る突発の仕事は最優先でやってもらう」
「分りました」
連絡はやはり必ず御上さんを通す、というより御上さんから入る仕事はそういう仕事だって思ったほうがいいみたいだ。果たしてどんな仕事をされるのか。
「本当に本人になりきるやつは変わらずに有栖川にやらせる。今回みたいに結構裏に突っ込んだ仕事はもう一人のやつにやらせるべきだったが、まぁそこはお前のレベルアップと一区切りつけるためにやってもらった。ここで潰れるようだったら必要ないからな」
「それはどうも。俺の見えないところで色々とフォローもしてくださったみたいですし、ありがとうございます」
「お前のためじゃなくて全部俺のためなんだけど。俺自身が馬鹿にされたり恨みを買うのは別に屁でもねえからどうでもいいんだけどな」
少し声色が変わった。この部屋には俺と火男さん以外はいないが……盗聴器か。それなりに安全対策をしているこの会社内で盗聴器を仕掛けられるとは、相手も相当やばいやつってことか。
「ただ、俺は俺のモノに手ェ出されることだけは絶対に許せないんだよ。こいつに唾つけんな」
誰かへのメッセージ。こんなに楽しそうな雰囲気で殺気を出せる人間がいるとは思わなかった。勘弁してほしい、音を聞いているだけではその迫力は伝わらないかもしれないけど。一緒にいる俺はチビりそうなくらい怖いんですが。
「次は無い。もう一回やったら骨まで全部溶かす」
そう言うと持っていたタブレットをその場で勢いもつけずに真っ二つに折ってみせた。おいおい、どうなってるんだこの人の腕力。
それにしても盗聴器っていう物理的なものじゃなかったか。盗聴するアプリかプログラムをこっそりインストールさせられてたか、ウィルスに感染しているか。今や盗聴もデータの世界か。技術発展ってほんとにすごいな。
「ちなみに今の誰ですか」
「才華の上司だろうな。お前のこと諦めてないのはコイツも一緒だ。警告を素直に聞いてくれる可愛い奴であることを願うよ」
そっちはそっちで面倒なことやってたんだな、こっちに来なかったからありがたいけど。今まで何回かちょっかいを受けてたってことか。
「ところで俺も気になってること聞いていいか」
「はい?」
「誰かに使われるのは嫌じゃないのか?」
晴海のことを言われてるんだっていうのはわかる。確かに結局同じ道に戻ってきた。でもこれだけははっきり言える。




