5 晴海
「晴海はお前になんて言ってたんだ? お前も絶対にナンバーワンになれるって? 今回負けた原因はお前のアピール力が足りなかったからとか、俺がファンを味方につけるサービスをしてお前はしなかったからとか? その程度で差なんてつくか。俺に圧倒的に金が動いたのは、東南アジアで投票権を大量購入した富裕層がいたからだ」
カンパネラは絶大な人気を誇っていたけど、海外に目を向けている奴はいなかった。とにかく国内、自分を応援してくれるファンへのアピールをしまくっていた。台湾やベトナム、他の親日的な国でも投票券やグッズ販売を展開していた。もちろんミーティングではそんな話は一切していない。
「自分だけ海外アピールかよ、卑怯な晴海らしい手段だなぁオイ!」
「買ったのは現地の人じゃない、日本人だよ。ファンの間で海外が狙い目だって裏サイトで盛り上がってた、そんなことも把握してなかったのか」
値段じゃなくて「票」だからこそできることだ。海外にはその国のレートで価格設定されている。そんなの日本のファンは爆買いするに決まってる。日本の販売は爆買い禁止のルールが厳しかったが、海外はほぼそれがなかった。無法地帯だったんだから。
「次のドラマの主役は俺だったんだ! もう晴海が一位で居続けることにとファンたちが飽きてきてる、ここで大逆転をしたほうが盛り上がるって二か月前から打ち合わせてた!」
「なんでそんな簡単な餌に釣られるんだよ。アイツの性格考えりゃありえないだろ事前予告なんて。ま、実際は俺にもやらせる気がなかっただろうけどな」
「あぁ!?」
「最初から風間さんにやらせるつもりだったんだろ。晴海は間違いなく六年前黒猫として活動してた、あの社長とは繋がりが深かったんだ。じゃなきゃ風間さんがあのドラマに抜擢されて、今回風間さんを潰そうとするわけがない」
俺のスマホはずっと通話状態だ。この会話を向こうではスピーカーで聴いている。当時晴海がどんなシナリオを考えていたのか知らないが、何か意図的にトラブルを起こしてドラマの主演になること自体をポシャらせるつもりだったんだと思う。マンネリ化していた人気投票は荒れる、それを逆風にするシナリオが晴海にはあったと考えるのが自然だ。
風間さんがドラマをやることであの事務所に金が動くのは二人の間での約束事だったと考えれば筋が通る。俺が海外に行くシナリオもなんでそんなにあっさり思いついたのかと思ってたけど、それは最初から予定に入れていたことだったってわけだ。圧倒的ナンバーワンの東風晴海を一度海外に行かせて、ハリウッドの仕事を視野に入れていた。
マジなんなんだあいつ、未来を見通す異能力でももってたのか?
そんなものないってわかってるからこそあいつの化け物みたいな頭の良さに心底腹が立つし、めちゃくちゃ怖い。マジ怖すぎるだろ、怪物みたいなもんだ。
「晴海の芸能界でのビジネスモデルは大成功した。裏の仕事をうまく操って、いろいろえげつないことをやったからな。しかも恨みはうまくかわして闇討ちもない。その結果がアイドル東風晴海だ、億単位の金を稼ぐようになった。そりゃ欲しいよな、芸能事務所の社長なら。お前もそう思ったから晴海のふりをしてるわけだけど」
自分にもできると踏んだ。顔出しして活動していない謎の存在「黒猫」。自分がすり替わっても他の馬鹿どもは気づかないと思ったんだろう。
「あの社長がお前の正体に気づいてないとでも思ってんのか。お前がどれだけ晴海を完璧にコピーしても、あいつにはなれない。詰めが甘いしやることが中途半端だし、相手にヒントを与えすぎだ」
馬鹿すぎてかわいそうだ。こんなみっともない形で晴海に囚われ続けているなんて。
「お前が偽物の黒猫だって気づいてて、上手く使ってるだけに決まってるだろ。その証拠に黒猫っていう存在乗っ取られてるじゃねえか。お前が中心だと思ったか? 実質の黒猫は社長だろ」
全部、手のひらの上で踊ってるだけだ。鼻で笑うと心当たりがあるらしく、顔を歪める。
芸能事務所という組織を一つ持っていて、手駒の数が多い。金もそこそこある、入ってくる若手を自分の思い通りに教育もできる。晴海がやっていた「東風晴海」のビジネスによく似ている。絶対的な違いは、たぶん社長にはそこまでカリスマがなかったってことぐらいか。風間さんを手なずけることができなかった。あの人を手なずけるのに必要なのは金でも女でも地位でもない。それしか持っていない社長サンには、無理だったんだ。
「で、どうだった六年間。晴海のふりをして。楽しかった?」
俺の言葉に流星は答えない。本当に頭にくると怒り狂うわけじゃなく、物静かになるやつっているもんだな。
「……なんなんだよお前」
「半井崇ですが、なにか?」
本当に何なんだろうな。誰からも好かれるキャラの東風晴海ではない。かといって晴海の真似をしているわけでもないんだけど。あいつはこんなに穏やかな話し方をしない。強いて言うならそう、晴海がもしも本当に自分でアイドルを続けていたら。たぶんこんな性格の悪いアイドルになっていただろう。
「何がしたい」
「別に何も? 目標も夢も希望もないからやりたいことなんてないかな。俺はただ生きてるだけだ」
「なんで他人になりすます仕事なんてやってるんだよ」




