1 counterattack
会社に着いて使っていない会議室を使わせてもらうことにした。火男さんは仕事があるようでまた出かけるらしい。とりあえず一時間待機したら後は自由にしていいという事だった。たぶん警察とか裏のナニカを処理しているんだろう。メディアを押さえ込むとかもあの人だったらやってるかもしれない。
一応風間さんにはアプリで連絡を入れた。するとアドレスが一つ送られてきた、これは動画のライブ配信か。会員登録した人だけが見られる限定配信だが、会員には勝手になっている。つまり俺との連絡専用に立ち上げたんだ。そこには部屋に隠しカメラをつけているらしく風間さんと愛梨が映っていた。あっちのシナリオもだいぶ進んでるってことだな。
「なんでこんなことになったんだ。騒ぎすぎだろ、完全に俺が殺人犯の共犯みたいな報道の仕方じゃないか」
風間さんの言葉に俺は再びニュースを見た。速報で東風晴海殺害容疑の男性は誤認逮捕と既に出ている。早すぎるだろ、警察内部でこのシナリオまで既に準備されてたってことか。今更だけどあのエリート君、完全に内部でも踊らされてたんだなご愁傷様。トカゲの尻尾切りに使われたのは黒猫と警察二カ所からだ、ダメージでかそう。
そのニュースをまだ見ていない二人は今後ドラマをどうしていこうか相談しているっていうところだ。スタッフであるはずの月守さんがそこにいないのをこのお嬢さんは果たして疑問に思っているかどうか。
思ってないから二人きりで会ってるんだろうな、そこは風間さんの方が役者としてレベルが桁違いだから。隙のない風間さんがようやく弱音を吐いたから今しかないとチャンスを掴んだ気になってる。
「あ、あの。私にできる事だったら何でもするから」
「ドラマのアップロードは一旦中止だ。続きを上げることなんて出来ない。役者を辞めて監督で華々しくデビューする足がかりだったのに」
俺から見ても今の風間さんは深く絶望している。本当に凄いなこの人の演技は。
「事務所と揉めてるってちらっと聞いたけど、やっぱりそれが理由なんだ?」
事務所を辞める覚悟がある。それは本当だった、今回の件をやって辞めるつもりではいたんだろう。それをうまく使ったってところか。
「役者の方が食っていけるからお前はそのまま役者で居続けろっていうのが社長の方針だ。冗談じゃない、俺は監督としてもやっていける。覆面でいくつもショート映画とか作って来た。実績はじゅうぶんあるんだ。風間縁の名前で監督デビューすれば知名度がある状態でドラマを見てもらえるのに、なんだよこれ」
本気でそう思っていたんじゃないかと思えるほどの迫真の演技。見ているこっちが手に汗を握りそうだ。なんか俺のせいですみません、と言いたくなってしまう。
「事務所を辞めるってことで違約金を払ってる、後戻りできないんだよ俺は! クソ!」
「え、じゃあ結局事務所は辞めちゃうの?」
「社長と揉めたからな。あの野郎は各方面と横つながりが広い、絶対に嫌がらせでメディアに情報を売るに決まってる。俺に仕事させないようにテレビ局に圧力かけることだってできる。俺はこの業界でやっていくのはもう不可能だ。スポンサーだって決まってたのに契約打ち切られるに決まってる、最悪だ」
追い詰められている、思い悩んでいる。そんな様子を見せてやれば必ず。
「あの、まさか死にたいとか言わないよね? 杏樹のこともあるし、そういうの私聞きたくないからね」
「言いたくもなるだろう。一般人として食っていけると思うか? 顔が知れ渡ってるのに。大炎上で芸能界を追い出されたやつなんてネタに使うやつはいても仕事で使うやつなんていないだろ。どこにいったって指さされて笑われるに決まってる」
「仕事に厳しかったから、その辺のやっかみとかも多そうだもんね」
さりげなくフォローをしているようで傷を抉っている発言。だから私が助けてあげる、そんな感じのセリフを言ったら私はあくどいことをしていますって自己紹介してるようなもんなんだけど。
「私は何も力になれないけど。縁さんのそばにいることができるから。だから絶対に死ぬとか考えないでね」
いやだから普通言わないんだってそんな事。ほとんど交流のなかった親戚がそばにいるなんて、リアルでは言わないんだよ。少女漫画の見すぎだ、実際それを言われたら普通は引く。面と向かって力になるよ、なんて日本人が言うわけないだろ。
「愛梨……ありがとな。今はその言葉だけで充分だ。お前がいてくれてよかった」
「そういえば仕事で使う連絡先しか交換してなかったけど、私のプライベートの連絡先教えるから。愚痴でも何でもいいよ、連絡ちょうだい」
「愛梨」
ちょっと感動しているかのような柔らかい声色。さすが恋愛ドラマをいくつも制してきただけある。二人は連絡先を交換する。しかしついでにニュースアプリが目に入ったらしく愛梨は驚いたように声を上げた。
「しゃ、釈放? 誤認逮捕!?」
「え、ほんとか?」




