4 カーチェイス
「黒猫は大体目星がつきました。俺の昔のアイドルグループのメンバーですよ、ハッパかけたら今回のことを仕組まれたので相当頭にきたみたいですね」
ドラマの主人公が黒猫、それをいいように引っ掻き回すのが晴海。面白いわけがない。俺が黒猫の立場だったらブチ切れて当たり前だ。六年前の縮図そのものなのだから。
「どうやって決着つけるつもりなんだ、具体的な終着点は? 相手をブチ殺すわけじゃねえんだろ」
「それはもう少しあのバカとおしゃべりしないとわかりません。今回警察がペラペラ喋ってくれた情報の中にもいくつか収穫あったんですけど。あいつがやってるのは晴海がやってることの延長線ですよ」
「ほう?」
誰かを使って世の中をコントロールする。晴海は芸能界でマーケティングに全フリしてたけど、ヤクザとのつながりや情報操作は日常茶飯事だった。その中でいくつかの裏のつながりは当然残っていたはずだ。そこに後釜として収まった可能性が高い。
「俺は表向きでアイドルばっかやってたけど、流星はたぶん裏の部分でこき使われてたんだと思います。晴海は本名で活動するわけないし顔出しもしない。当時黒猫を名乗ってたのは晴海ですね、間違いなく」
「なるほどねえ。黒猫が死んだことは裏でも知られてない。佐倉流星は東風晴海に成り代わって裏の仕事を六年間ずっとやってきてるってことか。なかなかハイリスクなことするね」
自分にはできると思ったんだ。あんな奴にできるのなら俺にだってできる。そう思わせておいてそのプライドを叩き割る、晴海の常套手段だった。俺も何百回それをやられたことか。
俺と流星の違いはたぶん。俺は絶対に晴海には勝てないと頭の中で理解をしていた、晴海に勝つことを諦めた。でも自分の人生を掴み取ることを諦めなかった。
流星はあいつに勝てない事は自覚をしていたが絶対に認めなかった。そして目の前の地位や財力を使って晴海【黒猫】を演じ続けることで、自分の望んだ人生を掴み取ったと勘違いしている。
俺もあいつも晴海のスポットライトに当てられた影だ。主役なんてありえない、いつだってアイツの足元で這いつくばっているだけ。ただの幽霊役者。
「この後風間さんに連絡してこの先の方針を決めます。たった四時間でこの炎上騒ぎ、黒猫もだいぶ動いてるでしょうからね。それなら風間さんは三歩先まで先手を打ってますよ。俺がいきなり接触しな――」
「半井、対ショック姿勢」
「は?」
は? と口では言ったが体が自然にその体勢をとっている。飛行機に乗るときでもやるが、これが脊髄反射でできるあたり俺も色々とアメリカで苦労してきたんだなって実感する。
次の瞬間凄まじい遠心力が体にかかった。ギャギャギャ! とタイヤの擦れる音がしてるあたり、これ絶対ドリフトしてるだろ。
「火――」
「しゃべると舌噛みちぎって歯が折れんぞ」
呑気な言葉とは裏腹にブォン! とエンジンが鳴る。アクセルを思いっきり踏み込んだのか。しかし、ボン! とこれまたすごい音がしたかと思うと一気に蛇行運転のようになる。
「あ、タイヤバーストしたわ。こりゃ一発当てられたな。四駆じゃなかったら詰んでた」
「恨み買いすぎでしょ! 乗らなきゃよかった!」
「乗らなかったら拉致られてただろうがよ。なんで俺がスポーツカーで警察に来たと思ってんだ」
「こうなることを予測してたんですか、スピードが出せる車の方が撒けるから!」
「カーチェイスできるのが楽しいからに決まってんだろ!」
ヒャッハー、とでも言いそうなウキウキした声だった。対ショック姿勢とってなかったらこめかみにチョップしているところだ。
「自分でも予測しただろ、お前を潰したい黒猫と手に入れたい黒猫がいるってな。今来てるのは後者だ、アホな子猫どもと違ってこっちはジャガーだと思え!」
しゃべるなって言ってる割に自分はペラペラ喋っている。そして窓を開けると右腕を外に出したようだ。俺は相変わらず屈みこんだような格好だからうまく見えないけどこれは。
パン、といくらか乾いた音がした。
「お、当たった。さすが俺」
「サイレンサーの音しましたよ今!」
「そうなんだよな、ドラマでサイレンサーってものすごい静かに表現されてるけど実際は結構うるせえんだわ。初めて撃ったときがっかりした」
「俺が言いたいのはそこじゃないんだよおっさん!」
我慢できずにとうとう敬語が吹っ飛んだ。いやこの人もわかってて言ってるんだろうが。サイドミラーをチラ見しただけで後ろの相手に当てるとか、どんな射撃の腕前だよ。
「車の頭数が多いな、両脇から挟み込んで無理矢理減速させるつもりっぽい。こっちはタイヤもやられてるし」
「拉致監禁されるのは火男さん一人でお願いします!」




