3 あっさりと釈放
「それを私に言われてもね、上の決定ですから。詳しい話があるそうなので会議室に集まるようにとのことです。そういうわけだ、バタバタしてすまんね。任意同行ご協力感謝いたします」
そう言うと壮年の男性が軽く頭を下げる。岸辺はそんな様子を見せずにさっさと部屋を出てしまったが。それを見た男性はため息をついた。
「激おこだな」
「結構古いですね、それ」
「そうなのか? 時代の流れが早いなあ、仕事ばかりしてるとつい最近だと思ってることが数年前のことだったりするからな」
「……分ります、びっくりしますよね。もうそんな時間をたってるんだ、みたいな」
六年も経ってるなんて信じられない。ついこの間のことのように思ってたけど。
「あー、大きな独り言だから気にしないで欲しいんだが。すまなかったね」
俺の額のことを言ってるんだろう。何があったのかという会話をしてしまったらいろんなところに波風が立つ。
事前に説明されてないけどどうせこの取り調べも録音や録画されてて、さっきのやつが回収して編集するだろうけどな。だからはっきりとは言えなかったんだ。
「飯なら気にしないでくださいよ、これから食べます。カレーの気分だし」
俺のすっとぼけた返事に彼は小さく笑うと俺を外に出るように促した。それにしても早かった、一体誰が動いたのやら。まさかと思うけど火男さんじゃないよな?
そう思って警察署から出ると、なんともまぁド派手なスポーツカーが一台停まっていた。運転席に誰が乗ってるかなんて考えるまでもない。
「迎えに来てやったぞ、下僕」
「何してるんですか火男さん」
この人だよなどう考えても。大きくため息をつきながら俺は助手席に乗った。ものすごい音を立てて車は走り出す、なんでスポーツカーってこんなにやかましいんだろう。
「まさかと思いますけど、警察動かしたの火男さんじゃないですよね」
「むしろお前をさっさと連れて帰れボケナスって連絡もらったクチだ」
ってことは、警察内部に知り合いはやっぱいるんじゃん。食えないおっさんだ。おっさんというのが憚られるくらいには若々しい見た目をしてるけどな。ボケナスって言い回しも微妙に古い気がする。……さっきの人か、連絡したの。
「何日も閉じ込められると思ってたので、たった四時間で出られたのは意外でした」
「どう考えてもお前を殺人犯に仕立てるのは無理がある。証拠が偽物なのも見りゃわかるし、六年前の芸能人が絡む事件が解決しても警察に良い事ないからな。脳みそお花畑のアホだってわかるさ、警察内部で動きがあったんだろう。お前がパクられて世間はまあまあ騒いでるぞ」
自分のスマホの電源を入れてネットニュースを見てみると、検索するまでもなくトップにずらっと記事が並ぶ。
六年前のアイドル殺人事件が未解決なのが大きいが、六年前は人々の記憶にも新しい。まず東風晴海の知名度によって大々的に報道されている。半井宗とは何者なのか、がニュースで散々取り上げられているがその内容は全く身に覚えがない。偽物の戸籍だから適当に警察がでっち上げたようだ。
取り調べの段階にしては警察からの発表が早すぎる、シナリオを用意されてたってことだ。あのエリート君がノリノリで動いていたのがよくわかる。
次に出てきたのは当然風間さんのドラマの延期騒ぎだった。まさか本物の殺人犯が殺人のドラマ撮影してるなんて、というような内容だ。被疑者じゃなく殺人犯、って情報の流し方になってるな。
風間さんは沈黙、取材も全て応じていない。それが一部の人間には反感を買っているみたいで、殺人犯だって知ってたんじゃないのかという意見から風間さんも共犯だという誹謗中傷まで出ているらしい。そりゃ、東風晴海がやるはずだったドラマの主演やった共通点があるからな。
どんなスキャンダルも、ニュースキャスターやネットで言われる内容って呆れるほど全部同じだな。さすが教師がくっちゃべるだけのクソつまらない学校教育をしてる日本の文化だ。
個人の能力をのばすのではない。全員がサラリーマンとして生きていくよう、平均になるよう平らにならす人格の形成しか教育しない。
親はオイシイところだけ自分のおかげだと自慢して、その他のことをすべて他責にしたがる。学校が悪い、付き合ってる友達が悪い、国が悪い。
他人を見下して非難することでストレス発散する社会が成り立つ。才華の母親のような人間が面白いくらいに量産されている。個人の意見なんてない、コメントを見ても言ってることが大体みんな同じ。
黒子がウジャウジャしてるみたいだ、気持ち悪い。本当に気色悪い舞台だ、この世は。
「んで? そっちは順調なのか?」




