1 殺人容疑の取り調べ
会社に出向いたらあっさり警察に連行されることになった。逮捕状が出ていないからあくまで任意同行ということだが、完全に俺を犯人として扱っている。俺も会社まで来たから逃げも隠れもするつもりはない、好きにしてくれって感じだ。
刑事ドラマみたいに精神的圧力をかけて無理矢理自白まで持って行かせるパターンかな、どうやって出るだろうかと少しワクワクしてくる。
取り調べを担当したのは警察が二人。もう見た目からしてエリートで出世街道まっしぐらっぽい男と、壮年の男性だ。おそらく若い男の方が役職が上なのだろう、俺の取り調べはこの男がずっとくっちゃべってる。聞く価値もないことばかり、べらべらと。
事実だけを述べればいいのに自分の推察を交えて話すもんだから、この男の話を聞くのに三十分以上かかった。
要点をまとめると、「半井宗」がアイドルの東風晴海を演じていて、殺されたほうが戸籍上の本物の東風晴海。秘密をバラされそうになったか、圧倒的なカリスマや財力を持っていたあいつに嫉妬して殺したんだろうという事だった。
状況証拠だけなら俺が犯人だと思えるものは揃えてきた。よくもまあここまできれいに捏造できたもんだ。科学の技術進歩って凄いなって思う。何せ全く身に覚えのない監視カメラの映像まで出ているのだ。半井崇っぽいやつが晴海と一緒にいる絵面、ただし顔はあまり写っていない。
その当時は半井宗のトレードマークのメガネとパーカー身に付けてないんですけどね、と言えたらどれだけ楽だろう。ここからわかるのは、警察は半井崇という人物は実在している、と思ってるわけだ。
六年前のアリバイの証明なんてできるわけがない。何やってたかなんて覚えてるわけないでしょうということで適当にかわしてはいるが、相手の警察は随分と余裕の表情だ。たぶん俺が何を言ってもそれをひっくり返せる証拠を作ることができるんだろう。後ろ盾がいるから安心しきっているというのも態度からわかる。
俺はいかにも頭が軽そうな、状況を深く飲み込めてない男を演じている。そのキャラクターはまさに、アイドル性を差し引いた「東風晴海」そのものだ。途中休憩を入れつつも、俺は取調室にかれこれ四時間放り込まれたままだ。
ひどい取り調べだと一日以上トイレにも行かせてもらえず、自白させるまで粘り続ける警察もいるって聞いたからまだ俺はマシな方なのかな。
アメリカの警察とかマジでマフィアかって言いたくなるような取り調べの仕方だったし。どうも東洋人を嫌うんだよなあっちの白人警察って。やってもいないことを勝手に万引き窃盗と、いろいろ決めつけられて前科持ちにさせられたっけ。
「お腹すいちゃったんですけど。警察署ってカツ丼出ないんですか?」
「聞かれたことだけ答えてもらえるかな」
「昭和くらいの警察だったら権力にものを言わせて強引な取り調べもできたんでしょうけど。SNSが発達した今では気をつけたほうがいいですよ。警察の不祥事って一般市民は大好きですから。俺は食事する権利無いんですか」
はは、と笑って言うと相手も余裕の表情で適当にごちゃごちゃと理屈をこねている。俺が論破をしたつもりになっている頭の悪い男だと見下しているようだ。
さっきの発言がどれだけ世間のことがわかってないアホな発言かは俺が一番よくわかってる。この程度のことで警察が態度を変えるわけもない。SNSなど警察の権限で簡単に閲覧も削除もできる。騒ぐだけ無駄だ。
「まあいい。言っておくが警察が飯を奢るなんてことはしないからな自腹だ」
「はいはーい」
「じゃ、カツ丼を」
「あ、蕎麦でお願いします。肉嫌いなんですよ」
俺の言葉に初めて相手の男の眉がピクリと動いた。反応すると思った、この手のタイプは絶対に人の揚げ足を取る頭の悪い奴が大嫌いだろうから。
エリートが嫌う人間って大体みんな一緒だな、晴海もこういうタイプが反吐が出るほど嫌いだと言っていた。
煽るとボロを出すタイプに見えた。取り調べも俺が微妙なツッコミを入れると嘘をペラペラ喋る。嘘つきの典型だ。息をするように嘘をつく奴は、自分の言ったことを覚えていない。この四時間だけで三回矛盾したことを言っていた。
記録をとっていた年上の男性が部屋を出る、どうやら食事の手配をしに行ってくれたらしい。扉が閉まった瞬間、俺は目の前の男に髪を掴まれて机に顔面を叩きつけられていた。
「邪魔な奴がいたから本気で話せなかったけどな、お前が世間にさらして欲しくない情報はわかってるんだ。ええ? 私生児のゴミ溜め生活してた社会のゴミが」
「暴力反対、さすがに大炎上しますよーこれ」




