7 東風晴海殺人容疑
『キャバクラに行ったら、とにかく女にしゃべらせろ。苦労してることとか、特にナンバーワンホステスの話をさせてみると良い。水商売っていうのは人間の心理操作を磨くのにちょうどいい。相手はプロだ、内面なんて悟らせない。でも、女って生き物は自分に共感してくれる相手に絶対に落ちる。プロを暴けるようになっておけ』
そんなふうに言われてキャバクラに何回も行ったしホストクラブにも行かされた。今こうして俺の人生の役に立ってるんだからなんとも言えない気分だ。
「そっちはどうなんだ、さっきの話だと同じグループのメンバーが黒猫なんだろ」
「流星と愛梨。この二人の動きが活発になったタイミングが大体一致してます。お互い情報共有してこっちの動きを探っているんでしょうね。勘ですけどたぶん愛梨は流星に惚れてると思います、良いように操られている。まさか黒猫のボスが流星って事はないでしょうが、死神のリーダーぐらいはやってるかもしれません」
もしそうなら。もしかして、流星は俺たち「東風晴海」のことを知っていたんじゃないかと思う。だって自分の手足としていろんなやつを動かしているこのやり方、晴海そっくりだ。肝心なツメはだいぶ甘いが、誰かを矢面に立たせて自分は一歩引いたところにいるというやり方はよく似ている。
唯一当てはまらなかったのは俺に会った時だ。愛梨から情報をもらって、いてもたってもいられなくなったってところか。そうだろうな、無茶苦茶嫌われてたからな、俺。
俺の電話が鳴る、会社からだ。向こうから連絡が来るという打ち合わせをしていない、緊急事態だ。
「来ましたよ、黒猫から次の一手」
そう言うと俺は電話をスピーカーで受ける。
「はい、半井です」
『御上です、お疲れ様です。今日はお仕事ではないですよね、すぐに本社に来れますか』
「まあ大丈夫ですけど。何かありました?」
『会社に警察が来ています』
「警察?」
警察、ね。今御上さんの傍に警察がいるんだな。
『半井さんに殺人容疑がかかっているそうです』
……。へえ?
「は? 何かの間違いでしょう」
『私もそう思いますが、とにかく本社へ。詳しい話は警察からあります』
「わかりました。っていうか、誰の殺人です?自慢じゃないですけど俺交友関係めちゃ少ないですよ」
『それが』
一瞬言い淀んだ。俺に遠慮する条件って、少ないはずだ。
『六年前の東風晴海殺人事件の容疑者だそうです』
ああ、そう。そうきたか。なるほどな、よくわかった。お前らがとんでもないクソ馬鹿だってことがよくわかったよ。
「なんか芸能人でしたっけ。まあいいや、調べれば関係ないってわかりますし。今から行きます」
そうして電話を切った。でっち上げの証拠か裏ルートの情報提供ってところか。間違いなく黒猫、つうか流星だなこれやったの。
くっくっく、と笑いがこぼれる。いや笑う以外何かあるか? こんな馬鹿馬鹿しい展開は奇跡みたいなもんだ。雷に打たれて死ぬくらいインパクトがある。
「よりにもよって、晴海の殺害容疑が俺? ふ、っくく。笑えるんだけど」
「逆鱗に触れちまったか?」
「まさか、この程度逆鱗にもなりませんよ」
面白いな、本当に。奇跡レベルの馬鹿っぷりに涙が出そうだ。
「いろいろと情報提供してもらったから感謝したいですね。このタイミングなら通報は流星、俺を犯人にしたい。たぶん東風晴海が二人いたっていう情報は警察にいってます。だから俺が嫉妬で殺したってシナリオなんでしょ。檻から出さないためにでっちあげの証拠くらいはあるんでしょうねえ? つまり警察と仲良しなんですよ黒猫は。金のやり取りで警察の一部と癒着状態だ。こりゃあ手強いな」
あはは、と笑いが止まらない。よりにもよって。俺が、晴海の殺人。なんだそれ。マジうけるんだけど。
「たぶん拘留期間を最大限に使うでしょうから、十日は抜けますね。俺が先に撮影しておいで大正解でした。SNSは大炎上ですよ、風間縁作成ドラマの関係者が殺人容疑ってね。上手く使ってください」
「ああ、俺も死神の目的がなんとなくわかってきた。このタイミングでお前を逮捕なら死神の正体はほぼ確定だ。炎上も当初の目的の目立たせるって意味じゃ大成功だ。さて、愛梨には役に立ってもらわんとな」
お互い危機的な状況だというのに余裕だ。そりゃそうだ、何も焦る事なんてないのだから。好きなだけ取り調べをすればいいし、好きなシナリオで踊ればいい。
忠告でやめてやろうかと思ったがやめた。あくまで俺の心臓にナイフを突き立てるっていうなら、そりゃこっちだって刺しに行くに決まってるだろ。
何が何でも俺を犯人に仕立て上げるための準備が向こうはできているはずだ。別にそのままパクられるならそれでも良い。だが、そうはならない。
ドル箱確定の東風晴海をそのまま警察に置いとくなんて黒猫はしない。今回のことを餌に、出してほしかったら言うことを聞けとか、圧倒的にこっちが不利な条件で取引をしてくるはずだ。流星がそれを望んでいるかどうか知ったこっちゃないが。というよりも絶対に流星はそれやらないだろうな、自分の同業者に大嫌いなやつを持ってくるはずがない。
人格者のように見えた流星が、東風晴海に憎しみのような嫉妬を抱いていたのは当時から気づいていた。たまに目が笑ってないことがあったからな。
俺に優位に立つため? 俺を自分の手足として思う存分利用してやるためか? それともこのまま本当に殺人容疑で服役させたいっていうのもあり得る。
妙なところで甘さが出るのが、流星がいつまでも一位になれなかった理由だ。こんなにヒントをばら撒いてくれたのだから。
流星は本物の晴海に会っていた可能性が高い。晴海には道具やペットが俺以外に何人もいたのは容易に想像できる。流星は間違いなくその一人だ。
本当に面白いな。
楽しくはないが。




