6 動き出した黒猫
特大の釣り針に魚が引っかかった。ここから先は風間さんに任せよう。俺はあくまで編集作業しているだけのスタッフだ。
それに今まで演じてきた配役、セリフなんてないけど俺は本気でやってきた。まだ第一話が上がっただけだが、第一話を見ただけでも必ず黒猫は気がつくはずだ。エキストラに東風晴海が出ていることに。役柄の名前もそれっぽく変えてるしな。
そういえば愛梨が飛び込みでやってきたのは役柄の名前を変えた後。最初から手伝ってもらう予定だった彼女に、風間さんはそのことを連絡したはずだ。
ということはもう俺が東風晴海だと気がついて俺にくっつけてきたってことか。そんな食いつきが早いのは東風晴海に目をつけてる黒猫じゃない。
お前か、流星。
死神を動かしているのは、よりにもよってお前かよ。馬鹿げた話だ。
「あ、マネージャーから連絡だ。ちょっと席はずすね」
「ほーい」
黒猫仲間から、じゃないな。仲間からだったらわざわざ席を外さない。リーダー様からの連絡か。すぐに戻ってくると「ごめん!」と両手を合わせてきた。
「緊急でメンバー全員の打ち合わせがはいっちゃった。衣装合わせもするから直接事務所に来いって」
活動自粛中なのに衣装合わせと打ち合わせ、ね。自粛中なら次の活動は一か月は先だろうに、まだ打ち合わせなんてしないだろ。もう少しマシな嘘をついて欲しいもんだ。
「わかった、仕事優先で大丈夫だよ。残りは俺がやっておくから。何か先にやっておいてほしいことある?」
「大丈夫、よろしくお願いしまーす」
そう言うと彼女は片付けをしてパタパタと出ていった。向こうも本格的に動き出したな。俺が売った喧嘩がどうやら届いたらしい。まだ風間さんの動きには気づいてないってところか。
「その会話だけでそこまで普通は思いつかないんだよ。どうなってんだお前の思考回路は」
今までの話を撮影が終わった風間さんと二人で情報共有していた。黒猫が出入りしてるとなるとレンタルスタジオは盗聴器が仕掛けられている。月守さんの店も危ないかもしれないので、とりあえず激安のカラオケ店に入った。
「そうですか? 今よりもはるかに少ない材料で風間さんは偽死神の存在に気がついたんでしょう。そっちの方が凄まじいですけど」
「一応俺にも芸能界に横つながりってやつがあるからな。さりげなく聞いただけだ」
相手に気づかれることなく、本当にさりげなくなんだろうな。
「彼女はこのまま泳がせるんですね?」
「ポジションで言えば所詮は使いっ走りだ。やばくなったら切り捨てられる対象だろ、それまでは思う存分泳いでもらうさ。人を一人死なせてるんだからそれぐらいはやってもらう」
「じゃあ、自殺した子はやっぱり」
「他殺の断定はできない。他の黒猫どもに追い詰められて心身喪失状態になって、本当に自殺したのかもしれない。でも直接追い込んだのは間違いなく愛梨だ。今回のドラマの手伝いに誘った時に軽くボロ出してるからな」
「絶対表情に出たんでしょ」
「そりゃそうだ」
自殺した子に関して当たり障りない会話をしていた時。お互いの私物の場所がわかってるといっても、通帳まで確認できるはずがない。
「お前に見せた通帳の写真、俺は実物を確認している。そこからわかるのは杏樹は記帳の習慣なんてなかったってことだ。今どきは銀行のアプリで確認するだろ普通」
過去の記録がなかったのに、一度目の金の引き落とし日に四ページ分一気に記帳されていたそうだ。わざわざ金がなくなっているということをアピールするために愛梨が記帳に行った。そしたら過去分も一気に記帳された。それですぐに怪しいな、と気づいた。
通帳の場所なんて仲良しでも普通知らないだろう、よく知ってたなと言ったところ目が泳いだそうだ。女優としてやっていきたいって言っている割に本当に演技が下手だ。
「第三話、アドリブでだいぶシーンが変わってたろ」
「はい」
「情報提供してくれたのは一緒に撮影してたあの女だ」
第三話の登場人物、彼女が?
「この女も黒猫でほぼ間違いない。ただ黒猫同士っていうのはどうも仲が悪いみたいだな、スタッフに愛梨がいるのが気に入らなかったみたいだ。だから俺と二人になったときに実はあのアイドルグループ結構仲が悪いんだよ、ってペラペラ教えてくれた」
杏樹と愛梨、二人が口論のようなものをしているのを見たことがあると言っていたそうだ。その時「私知ってるんだからね」と杏樹さんが怒鳴ったら急に愛梨がおとなしくなったとの事だった。その女に「じゃあその時と似た感じで演技頼みます」と言ってあのシーンになったらしい。愛梨に、揺さぶりをかけるために。
「杏樹さんに愛梨のバレたくない秘密をたらし込んだのがその女でしょ、どうせ」
「ああ、なるほどな。嫌がらせにしては妙に具体的な情報だなと思ったけどそういうことか」
「女同士の嫌がらせってそういうもんです」
「なんだ、経験したことでもあんのか」
「キャバクラの女の子がよく言ってました」
「女ってコエーな」




