3 再会
悪びれもなくそんなことを言うと、クソ生意気な奴だと風間さんが頭にチョップしてきた。これぐらいは甘んじて受けよう、もっと痛い思いさせたのは俺なんだから。俺たちの呑気な会話に愛梨さんは目を白黒させている。
「愛梨、さっきの声は自分で消しとけよ」
「あ、うん、それはもちろんやるけど。役者の世界ってなんかすごいね」
呆然とした様子の彼女を尻目に後片付けを始める。カメラや他の道具を持って月守さんと愛梨さんが先に車に歩き始めた。
「レンガそっくりのスポンジなんてあるわけねえだろ」
苦笑した様子の風間さん。そりゃそうだ、本物のレンガなんだから。車中の彼女との会話でこれから行く場所は行ったことがないとか、事前準備をしてないとか言わなくてよかった。
まさか本当にレンガをブチ当てるわけにもいかないから俺の手で殴ったのは本当。レンガの重みが俺の手にかかって多少怪我はした。湿布するまでもない、たいしたことないが。
「本気で殺すつもりできたな」
「本気出せって言ったのは、あなたでしょ」
殺伐とした会話。たぶんムカついたんじゃなくて、やってくれたなこいつ。そんな思いだ、お互いに。散々俺の演技を見たい見たい言ってたから見せてやっただけ。しかも他の奴に直接演技を見せるなんていうリスクなことをやらされたんだ、これぐらいは勘弁してほしい。そういった考えもたぶんこの人はお見通しだろうけど。
「今回の話の編集は愛梨に任せる。その他の全体の流れをつないでいくのは頼んだ」
「分りました」
俺の撮影はほぼ終わった、あとは無言のシーンばかりだからすぐ終わる。後は風間さんと月守さんで他のキャストとの撮影を進めていく。俺はスタッフとして同行しドラマを仕上げていくことになる。
短編といっても一話二十分。間延びしたシーンなどなく怒涛の展開が次から次へと繰り広げられる、臨場感のある編集が必要となる。違和感が出ないように愛梨さんと二人で同じようなカット編集になるように打ち合わせが必要だ。
レンタルスタジオに戻ってきて風間さんの細かい撮影をすることになったのだが。予約を入れているはずなのに前の使用者達がまだ使っているらしく開いていなかった。
「こっちもスケジュールを調整してんだから勘弁してくれ」
やれやれといった感じの風間さん。そりゃそうだ、彼は一秒だって惜しい売れている俳優なのだから。
「俺が確認してきますよ」
そう言ってスタジオの外で作業をしている人に声をかけた。
「すみません、使用時間過ぎてるんですけど」
「あ、はい、すみませ――」
そこまで言って声をかけた男は俺を見て目を見開いた。
俺も適当に声をかけたから気がつかなかった。そこにいたのは「カンパネラ」で東風晴海と常に人気投票で一位争いをしていたナンバーツー。佐倉流星だった。
「あの?」
「あ、すみません。昔の知り合いにちょっと似てたからびっくりしちゃって」
「そうですか。いつぐらいに終わりそうですか?」
「もう終わってるんですけど、メンバーが撮影内容に納得いってないみたいで話し合いが始まっちゃってるんですよね。俺はアホらしくて外で片付けしてたんですけど、ちょっと注意してきます。すみません」
そう言うと流星は慌ただしく中に入っていく。それから数分もたたないうちに中からぞろぞろと人が出てきて、代表者がすみませんと謝ってからその場を後にしていた。
佐倉流星。東風晴海を追い抜くのはこいつしかいないと言われるほど人気が高かった。人気投票で何回か接戦だったこともある。一位は取れなくてもソロシングルを出したり単独CM出演は勝ちとっていたから知名度があった。
カンパネラがあの後どうなったのか興味がなくて、本当に全然調べてなかったんだけど事実上の解散状態みたいだ。さっきの言い方だとスタッフとして働いてるんじゃなくなんらかの活動はしているみたいだけど。それが芸能界なのか、個人のSNSや動画配信なのかはわからない。
あれだけいつも身近にいて、しかもライバル視していた相手だ。いくらなんでも気がつくか。さて、果たしてどこまで気がついているか。事実上東風晴海は死亡している。だから本人のはずがないとは思ったはずだが。
頭の中で冷静に、本当にそうかと鼻で笑っている自分がいる。ああ、そうなんだよな。憶測や推理は後でついてくるから今は直感的なものでしか言えないけど。
あいつ、絶対に気がついたはずだ。俺が「東風晴海」であることに。
それにしても、このタイミングで? たまたま俺が声をかけた相手が流星だった、なんて偶然なんだろうってか?
馬鹿いえ、ありえないだろ。どんな奇跡が起きたんだ。よりにもよって俺の正体に唯一気がつくであろう奴と巡り合わせるとか。北欧神話のロキが茶目っ気たっぷりな奇跡でも起こしてくれたのか。
俺の目的は黒猫を釣り上げること。それと同時に面倒なものが釣りあがったわけだが、どう結びつけるか。




