2 殺害シーンの撮影
全員で車に乗り込む。目的の場所は片道三十分くらいということだった。車中では主に俺と愛梨さんが会話をしてたまに風間さんがツッコミを入れるくらい。
アイドル活動しているということもあって男性との会話もずいぶん慣れているようだ、しゃべっていて確かに楽しくなれる会話をしてくる。正直に「ごめん君のグループ詳しく知らない」と言うと特に悲しむこともなく、全然売れてないから仕方ないと笑う。これから応援してねということで会員だけがもらえるキーホルダーをくれた。
メンバーは全員で本来は六人、一人減って今は五人。ほとんどテレビには出ておらず地方の小さなライブ活動とSNSでアピールしている最中なのだそうだ。本当は動画チャンネルを作って配信をしたいのだが、事務所が許可してくれないと口をとがらせる。
そりゃそうだ。台本なしでしゃべらせたら炎上するような無神経なことを言うに決まっている、事務所でコントロールできない。
そんな話をしていれば目的地に到着した。着いたのは古そうな小学校だ、すでに廃校になっているということだった。
「じゃ、今回は見所のシーンだからカメラを増やして二台で撮って切り貼りしよう」
月守さんの提案で月守さんもカメラを手に取り二方向からの撮影をする。愛梨さんは俺視点寄り、月守さんは風間さん視点。要するに被害者と加害者の二つの映像を撮るということだ。
最後の被害者は犯人の正体に気づいて奇襲を計画していた。しかしそれさえ犯人の計画通りで油断したふりをしてあっさりとやられてしまう。セリフは本来のキャストがしゃべるので殺されるシーンは数秒だ。なぜなら致命傷を負った状態で焼却炉に突っ込まれてそのまま焼かれてしまうのだ。
用意されていたのは人がすっぽりと入るくらいの大きさの焼却炉だった。見覚えのないものに俺と愛梨さんが首をかしげると月守さんが説明してくれた。
「平成の最初の頃は学校には焼却炉があって、学校から出るゴミを全部各校で燃やしてた。ダイオキシンが発生するのと、事故も多少あったから全面禁止された。市役所には撮影の許可をもらった」
そんなものがあるんだ。俺がリアルに子供の頃は既になかったにしても、俺はもともと学校には行ってないからそんなのがあるなんて知らなかった。
「まさか本当に焼却炉に風間さんを突っ込むわけにはいかないでしょ、どこまでやるんです?」
「致命傷を負わせるシーンだな。服着せたマネキンを焼却炉に突っ込むシーンも撮影したら終わりだ。ここで実際に燃やすことはできないから、そのシーンは別撮りな」
「分りました」
「あんまり時間かけられないから一発撮り」
本気でやれ、ってことか。愛梨さんがいるからどこまで本気でやろうか少し悩んでた。学生の時に演劇部だった程度の男の演技じゃないだろって思われたら面倒だから。でもそう言われたら本気でやるだけだ。
月守さんが音頭をとって俺たちの撮影が始まる。どういう致命傷を負わせるかは書かれてなかったから、焼却炉の側に落ちていたレンガで殴りつけた。
頭への強い衝撃というのは脳震盪を起こして下手をすれば一瞬で気を失う。しかし不幸なことに被害者は気を失うことができなかった。激痛で起き上がることもできないまま、俺に担ぎ上げられて焼却炉にぶち込まれる。
「え!?」
愛梨さんの慌てた声がした。その瞬間に月守さんが「カット!」と叫ぶ。すると焼却炉の中から多少汚れた姿の風間さんが出てきた。
「撮影中に声を上げるな!」
真っ先に注意した先は愛梨さんだった。たぶん彼女はどうして自分が真っ先に怒られるのかパニック状態だろう。ブチ切れる相手は俺のはずだ。
「だ、だって! 人形でって言ってたのにホントに縁さんを焼却炉に放り込むから! 怪我してないの!? なんであんなことしたの!?」
混乱した様子で俺にも詰め寄ってくる。そう、事前の打ち合わせなんて無視して俺は風間さんをそのまま焼却炉に放り込んだ。しかもレンガを使って殴るなんて打ち合わせを一切してない。殴られた衝撃は演技でも何でもない、本当に倒れ込んだ。
「レンガなんて――」
「事前に用意してたスポンジなので大丈夫です。レンガじゃなくて俺の手で殴ったから俺の手も痛いですけどね」
「一番痛いのは俺だ馬鹿野郎」
そんな軽口を叩きつつも風間さんは怒った様子がない。衣装が台無しじゃねえか、と言いながら煤まみれになった服をパンパンと叩いている。放り込まれた時の怪我もなしか、咄嗟に受け身が取れるのはさすがというかなんというか。やった俺が言うことじゃないが。クリーニングだなこりゃ、後でちゃんと払おう。
「だって俺演技のことわかんないですし。この世で一番嫌いな奴を殺すつもりでって言われたら、カットしないでそのまま演技つなげたほうがいいかなぁなんて。いるんですよね一人、すっごい嫌いな奴」




