1 新たなスタッフ
丸一日かけて大方の殺害シーンは撮り終わった。なんかいろんな殺され方をして斬新だったというのが正直なところ。ただしあと一人、最後の犠牲者を殺すシーンは予定通り俺が犯人役をやるということだった。なんとなく予想できたけど何故か一応聞いてみたら「お前の殺人の演技見たいからだよ」という案の定な返事だった。
犯人役なんで当然やったことない、確かに誰かを殺すのは初めてだ。殺害方法が書いてあってもどういう演技をするとは書いてないから、この辺も全部アドリブってことだな。
レンタルスタジオではなく外の撮影だ、現地に行くということだった。その場所は俺もまだ聞いていない、運転は月守さんだ。車はスモーク仕様になっていて風間さんが車に乗っている様子は見えない。
「おはようございます!」
身支度を整えていると撮影スタジオに元気な声が聞こえてきた。そこに立っていたのはかわいい女の子、たぶん親戚のアイドルの子だろう。
「愛梨、お前が来るのは午後からだろ」
風間さんからの注意になるほど予定外のことかと納得する。
「今アイドル活動自粛中なんだもん、じっとしてられなくて」
メンバー内から亡くなった人が出たとなれば活動を控えるのは当然か。そうじゃないと非難の的になる。
「来ちまったのを追い返すわけにもいかないから手伝いはしてもらう。こういう時は必ず事前に連絡しろ、二度目はないぞ。撮影現場においてスケジュールと時間厳守は基本中の基本だ」
「はーい」
月守さんと俺は軽く自己紹介をした。店で意気投合して、俺が編集作業できるということでスタッフに引っ張り込んだという話になっている。別に間違ってはいない。意気投合というのも「風間さんが」そう思ったのなら嘘ではない。
こういうところなんだよな、俺がついつい人を観察しちゃうのは。今までの会話からもわかってきた、たぶん風間さんは嘘をつかないけど相手を誤解させる方向に言葉運びをするのがすごく上手なんだ。真実を全て話さない事で相手の想像力に任せて自分の思い描いた方へ誘導する。
役者の世界というのは厳しい、役を掴み取るのは金の力もあるが、やはりそういうところも磨いていかないと生き残れない世界だ。綺麗事だけで成り上がる人間なんていない。誰かを傷つけることも多少はあるだろう。優しくて良い人だけでは役者は無理だ。
こういう人は警戒心が強くて心から人を信頼するという事は滅多にない気がする。それは火男さんも同じだ、あの人は絶対に人を信用してない。まるでお前を信用しているんだとでもいうような、自分が待ち望んだ指示や答えをくれるけど。そこにはいろいろな含みや裏があるのは会話すればわかる。
それにしてもこれからのシーンはこの子に見せるってことか。あまり気は進まないが、事前に二人に言っていた通り明るいキャラで接していくとするか。
「まさか本物のアイドルに会えるとは思ってませんでしたよ、誰ともブッキングしないって聞いてたので。よろしくお願いします!」
年下だけど礼儀は忘れないように。売れていないアイドルなら自分を持ち上げる態度の人には絶対に心を許す。案の定彼女はご機嫌になったらしく礼儀正しく挨拶を返してくれた。
「それにしても人手が足りないからって犯人役をやらされるとは大変ですね。演技の経験は?」
「学生の時に演劇部に所属してたってポロッと漏らしたらこんなことに。殺人犯役なんてもちろんやったことないですよ。風間さんは演技指導なんてしてくれないし、この世で一番自分が嫌いな奴を殺すつもりでやってくれ、としか」
「あはは、縁さんらしいですね~。普段は優しいけど仕事に関してはすごく厳しいから」
息をするようにすらすらと嘘が出る。嘘は得意だ、なぜなら嘘をついているという罪悪感も自覚もないから。俺が今言っていることは「今の半井崇」にとっての真実なのだから。
自撮りやPR活動の動画編集などは自分たちでもやっているということで、なんと撮影は彼女もやることになった。
「今はド素人でもきれいな写真が撮れる時代だ、カメラ構えてりゃ誰でも撮影なんてできるからな」
「ひどーい! それでもセンスがなければ変な画角になっちゃうでしょ!? 自分たちがどうやったら可愛くて綺麗に映るか一生懸命研究してるんだから! 後で映像チェックして感想聞かせてよね!」
さすが、撮られ慣れている子は言う事が違う。いまどきは普通の中高校生だって自分の写真を加工してSNSにアップする時代だ。AIによる加工も技術進歩が凄まじい、それくらいはできて当然なんだろうな。




