4 本気の演技
俺は殺される役だから、殺す役は風間さん。俺がもらった台本にも誰が真犯人なのかは書いていない、主人公である風間さん役の人物が犯人である事は充分あり得る。
……と、この考えを持ったらだめだ。殺される人物は相手が誰なのか知らないのだから。今までの半井宗のままじゃだめだな。考え込む癖をつけてるキャラだから。
「ちょっとだけ待ってもらえますか。今回の撮影用にキャラクターを一人作ります、俺の。名前はそのままで」
「あいよ」
エキストラや撮影に関わる人間として、撮影スタッフとしても今回関わるのであれば。表向きは社交的な人間がいいな、というか。馬鹿だな、もう名前まで決めたじゃないか。
「お二人といる時は素でいますが、他のキャストと関わる時はちょっと明るいキャラで行きます」
今回のドラマが終わるまで俺が演じ続けるのは。
晴海。
はじめての人間には屈託のない爽やかな印象を与え、こいつは利用できるなと思ったらじわじわと真綿で首を絞めるように態度を変えていく。あいつを演じる事は今まさに俺の首が締まってるんだけど。ドMか俺は。
でも、演技をする風間さんと対峙するのは悪い気はしない。しかも俺が殺される役の時は必ず風間さんは犯人役だ。一体どんな顔で俺を殺してくれるのか、ちょっと楽しみでもある。……やっぱりドMだな俺は。
どうやって殺されるのかは台本には詳しくは書いていない、そこはアドリブでという事だった。最初のキャラの設定を頭に叩き込んで俺はパソコンの前に座る。
最初の人物は後ろから襲い掛かられてあっさりと死んでしまう。背後に犯人が迫っていることにさえ気づいていなかった、後ろから首をかき切られて終わりだ。
頸動脈を切られたからといって人間が即死するはずない、意識があるはずだ。ただ苦しみの中で自分の首が切られたなんて理解できないだろう。何が起きたのかわからずろくに呼吸もできず、もしかしたらひっくり返った拍子に相手の顔ぐらいは見えるかもしれない。
でも頸動脈を切ったらかなりの出血がある、返り血を浴びないために犯人は着込んでいるはずだ。その状況で顔が見えるかどうか。やってみないとわからないな。
首に痛みがない程度の衝撃が走り俺はパソコンに覆い被さるように倒れてから、勢いのまま椅子から滑り落ちて床に転がる。大量にあふれる血が自分のものだと信じられずパニックになって、とにかく止血、救急車、そんなことばかりが頭をよぎってジタバタともがく。
そして目の端に映り込んだ知らない人物。鼻にかかるくらいまで深くパーカーのフードをかぶっていたのに、俺の顔を見た瞬間になんとフードを取った。
デスゲームではプレイヤー同士の顔を知らない、面識などないはずだが。俺は驚愕の表情で目を見開く。そしてろくに言葉もしゃべれずもがき続け、やがて痙攣してから静かになった。数秒、沈黙があたりを包む。
「ほい、オッケー」
何事もなかったかのように風間さんがそう声をかけたので俺も起き上がる。掃除が大変だから実際の血糊は使っていない、ここは後で映像を合成する。
「マジで殺したかと思った、ビビった」
「びっくりしたのはこっちですよ。なんでわざわざフード取って、しかも笑ってるんですか」
「いや見せておいたほうがいいかなと思って。ちょっと早い死体蹴りってやつだ」
「まるでやったことあるみたいな説得力ですよ」
「俺をなんだと思ってんだよ」
俺たちの会話に月守さんが我慢できないといった様子でとうとう笑い出した。
「お互いを褒めてんのか貶してんのかよくわからないけど、納得のいく演技ができたんだったらいいんじゃないの」




