8 風間への協力
さりげなく釘刺されたっぽい。切られるの覚悟でアホなことするなっていう。
「アホなことしたら山もコンクリもあります?」
「ボコボコに殴ってから海に散骨、も入れときな」
「こっわ」
「返事は」
「わかりました。いえ、違いますね。理解しました」
「そこでは普通即答しねえんだよ、まともな奴ならな」
ケラケラ笑う火男さん。正論すぎて言い返せない。
とりあえず今日のことを報告した。俺の担当者の御上さんも呼ばれて三人で情報共有だ。なるほど、彼女も直属の小飼か。そりゃそうか。
「ちなみに、俺個人というより火男さんが目つけられる心当たりは?」
「そんなの無限にありすぎてわからん。俺の知らない独り歩きのやっかみまであるからな、考えるだけアホくさいだろ」
「そりゃそうですけど」
「どこだろうが誰だろうが同じだ。生まれ育ちが違っても人の考えることなんざだいたい同じなんだからな」
人の本質を完全理解でもしてるのかこの人は。説得力がありすぎるからツッコミもできない。
「会社は会社で動く。さっきも言ったがお前は自分のやりたいようにやんな。報告だけしてくれりゃいい、報告は必ず御上を通してくれ」
「はい」
「御上、緊急性があるかの判断は任せる。急ぎだけ俺に報告しろ。半井の考える緊急性と俺らの緊急性は違うからな。本質で動け」
「わかりました」
裏ではもういろいろ動いてるってことかな。じゃ、お言葉に甘えて好きに動きますか。
以上だ、と言う火男さんの言葉でその場は解散となる。帰路につきながらそういえば忘れてた、と火男さんにメールした。
『ノートは才華に返しちゃいました』
するとすぐに返事が来る。
『お前がそう判断したならいいよ。なんかあった時の対応は自分でやってくれ』
「あ、やっぱり」
思わず声が出た。そりゃそうだな。
翌日、出勤すると大崎は休みだった。そして大崎と同じ派遣先であるうちの一人、若い男の方。金城の肩を強めに叩いて、耳元でささやいた。
「手首、平気ですか」
その言葉にビクリと震える。化け物を見るような目で俺を見るから、鼻で笑って席に着いた。
昨日の誘拐未遂の男はこいつだ、目でわかった。たぶんこいつらのいる派遣会社は普通の会社だ。質の悪い派遣会社はこういう奴らの隠れ蓑ピッタリだからな。ってことは俺の引継ぎ先の女も黒かな。ただ仲良しってわけじゃなさそうだ。
大崎にはたぶん盗聴器がつけられてた、俺の事を知ったのも才華が来てからの会話を聞いていたから。つまり、俺の過去がこの界隈にばれるのは本当に時間の問題だ。いくらでも使い道があるとわかってしまったら執拗に狙われるに決まってる。
やっと手に入れた俺の望んだ通りの人生。台無しにされてたまるか。
やっかいなのは黒猫、こいつらをどうにかすれば他の奴らは一旦追い払えるはずだ。この業界でヤバイのは黒猫っぽいからな。
才華の上司は黒猫を裏から掌の上で転がしてる厄介な奴っぽいから今は無視。たぶん火男さんがなんとかするはずだ。そっちじゃなく矢面に立ってるボスがいるはず。大崎やコイツの元締め、そいつを釣り上げる。
チャットツールを使って先ほどの男にメッセージを打つ。
『もしよければ、お茶でもします? ウチの会社の事務所で。連絡しておいたので、迎えに来てくれると思いますよ。あなたご自宅に』
さっと顔色を変えてスマホをいじり始める。家族に連絡か。チャットツールっていう証拠が残る媒体で脅迫するわけないのに、この程度に引っかかるか。黒猫の中でも下だな、まあいい。撒き餌には十分だ。
さて、俺もちょっと動くか。連絡用アプリを開いて、仕事以外で唯一登録している連絡先にメッセージを打った。
『この間の話受けます。俺も一本釣りしたいアホができました』
「派遣二人、仕事中にスマホいじるんじゃない」
「すみません」
飯塚さんから注意をされて顔も上げずに言葉だけ返した。仕事中らしく既読はまだつかない、でもあの人のことだから準備万端だろう。
さてさて。上手く立ち回らないと俺の人生が台無しだ、また国外に行かなきゃいけなくなる。それでもいいが。
動物は自分の縄張りに入ってくる奴を徹底的に排除する。その気持ち、ちょっとわかる気がする。人間も動物だよな、って思う。
こんなにも、胸がざわつく。
ちょっと面白くはあるけど、楽しくはない。




