3 探りを入れてくる者
「担当者に相談はできると思いますよ、ハラスメント窓口とかあるので。俺は面倒だからそういうのはやってないです。どうせ期間限定だし」
面倒だというのは本当だ。俺の目的は演じることであって金稼ぎやスキルアップをしているわけじゃない。ブラックだろうが面白くなかろうが、契約している期間は決まっているし生活できるくらいの給料をもらっている。危害を加えられない限りはおとなしく従って仕事をするだけだ。
それに揉め事を起こして記憶に残るような事はしたくない。人の入れ替わりが激しい昨今、そういえばあの人なんて名前だったっけくらいがちょうどいい。
「入社方法ってどんな感じです?」
「普通に応募して面接です」
俺はその方法で入ってないけどな。たまたま公園で社長と会って話をして、金も仕事もなかったから派遣会社の社長だってわかって面接をして。それで合格したから登録しただけだ。入社前教育の時に本来であればこういう方法で登録なんです、と説明されたことをそのまま教えた。
この時点で、他の派遣会社の入社を検討しているのは嘘だなと思った。派遣会社に今勤めているのだったら派遣会社への登録方法なんてわざわざ確認したりしない。そんなのどこの会社も一緒だ。
転職が当たり前になってきた今は転職エージェントの利用が普通で、まずは登録をするのはもはや一般常識でさえある。それをわざわざ社風とかではなく入社方法を聞いてくるとか、本気で転職考えてるわけじゃないな。
「それと」
「ウチへの転職を考えているのであれば、ホームページからエントリーしたほうが早いです。お友達紹介は、ウチではやってないんですよ」
「あ、そうなんですか。珍しいですね、今ってそういうので紹介した人にもキャッシュバックとかキャンペーンとかやってるものですけど」
グレーな仕事をしている以上雇う人間は慎重に判断していると思う。そういうキャンペーンをやっていないのがその表れだ。そこに食いついてきたというのも普通の人の着眼点ではない。
うちの会社に興味を持っているのは本当だが、入りたいわけではない。そして今勤めている派遣会社を辞めたいわけでもない。
あまり関わらないほうがいいタイプかもしれない、引継ぎ先がこの人じゃなくてよかった。
それじゃあそろそろ買い物に行くのでと言って立ち上がる。
「あ、時間とってすみませんね。じゃ、あと一つだけ」
あと一つだけ、ね。本当に聞きたかったのはたぶんこれだな。重要なものはある程度前座があってから持ってくるやつが多い。
「半井さんは、他の派遣に行きたいと思った事は無いんですか?」
「特に考えてないですね。今こうして仕事にありつけてるので」
そう言って小さく頭を下げると俺はその場を後にした。
次の日から職場で大崎さんからちょこちょこ話しかけられるようになった。最初は雑談のような感じだったけど、俺がそういうのを楽しむタイプじゃないとわかると仕事の話に変えてきた。
といっても俺の答えも一問一答って感じでそこまで会話を広げていないのだが。それに俺に聞ける内容なんてたかが知れてる、業務内容が違うのだから。今日も定時上がりをしたら更衣室で一緒になった。話す内容はかなり当たり障りない、今やっている案件がどこまで承認下りれば次に進めていいのかがわからないんだよねと言っている。
「わからない事はリーダーさんに聞いてください。俺も教えられた事以外は分かりません」
「いやあ、全体がピリピリしててちょっと聞きづらくて。すみません、迷惑かもしれないけど同じ派遣っていう立場で話しかけやすいんです」
そうだろうか。今回は結構俺も近づくなオーラを放っているんだけど。気づいてない……わけじゃないな、わかっててあえて声をかけてきている。
「半井さんて、いつまででしたっけ」
「今週末です」
「次の仕事先って見つかってるんですか?」
「もともとダブルワークなので、もう一つの方を出勤日数増やしてもらうつもりです」
「そういえば、そっちの会社って副業とかってOKなんですか?」
「さあ? 俺はやったことがないので確認したことないです」
それじゃあお先に失礼します、そう言って部屋を出た。周囲に誰もいないのを確認してからワイヤレスのイヤホンを耳につける。俺のロッカーの中に置いてきた電池式の盗聴器の音を聞くためだ。離れすぎると聞こえないので誰かが来たらこの場を後にするしかない。
『……マジで役に立たねぇ奴だな』




