2 新たな派遣たち
「聞いていません」
それだけ言うと俺は自分の席に戻った。派遣に先に教えるわけないと思うのだが。その程度の報連相もできてないんだなここは、わかってたけど。
結局新しい人の情報はそれから二日後に開示された。他の派遣会社から三人、俺が引き継ぎをするのは四十代の女性という事だった。どうせろくに面談もせず即戦力になる人を入れてくれとでも言ったのだろう。
その人たちが会社にやってきて軽く挨拶を済ませ、俺は早速引き継ぎを開始する。気難しそうな女性だなと思ったが話していくと別に普通だった。俺は必要最低限のことしかしゃべらなかったが、そういう事は慣れているのか向こうも当たり障りない会話だけだ。
本当に簡単にマニュアルや手順書がまとめてあったので、わからなかったらこれを見てくださいと渡す。なんかもうそれだけで引き継ぎ終わったような気もするんだけど。
派遣の人間は全員定時退社だ、当然帰りはその人たちとも一緒になった。二十代後半の男性、三十代前半の男性、そして四十代の女性。全員口を揃えて言ったのは「この会社ハズレだよね」ということだった。いろいろな会社を経験しているからやっぱりわかるようだ。
「俺も言われたことだけをやる業務なので、本当にわからない事は俺より社員さんに聞いたほうが早いです」
「それはそうでしょうね。それにしても、半井さんが意外と普通の人で安心した」
「はい?」
「私が入る時、飯塚さんだっけ? 課長さん。あの人あなたの悪口みたいなこと言ってたから。仕事しないって。人格に問題あるのかなって思ったんだけど」
普通そういう事は本人の前で言わないんだけど。この人気を許すとおしゃべりみたいだ。
「あの人話が長いから、途中で話を終わらせて仕事に戻ることもあるので。気に入らないんでしょうね、気合と根性で仕事する人が好きみたいです」
「働き方改革から限りなく遠いところで生きてる人っぽい。典型的な仕事しないおじさんか」
俺たちの会話に他の二人も入って「全力で働かないほうがいいな、仕事押し付けられる」「契約更新をしないってことで会社に伝えておこう」など言っている。
ああいう考え方の団塊世代は珍しくない。人が辞めるのなら入れればいい、働いてくれれば誰でも構わない。教育もマネジメントもハナからする気がない、そんな連中だ。
新しく人が入れ替わればその都度教育する人が必要なわけで。それは実際に働いている人たち、特にリーダーだ。何回も何回も同じことを繰り返さなければいけないことに嫌気がさすのは当たり前。
三人は同じ会社から来たということでそれなりに会話が盛り上がっている。俺はそこに参加する気は無いので、気まずくならないうちに退散しようと途中で足を止めた。
「買い物して帰るので俺はここで失礼します」
「はい、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
軽く会釈をして、特に用事もないけど駅ビルの中へと入っていく。この辺に住んでるわけでもないからデパ地下で惣菜を買うのはちょっと不自然だ、日用品とかかな。そんなことを考え歩き始めると、「半井さん」と声をかけてきたのは三十代の男性。大崎さんだった。
「はい?」
「いやすみません突然。実はちょっと話したいことがあって」
「はあ」
なんだ突然。しかも一人になった途端に追ってくるとか、他の二人には聞かれたくないってことか。
「お時間はあります?」
どうするかな、断ってもいいけどこれは後日改めてって言われるパターンな気がする。
「買い物の後だったら。特に用事はないので大丈夫ですけど」
「よかった。そっちの派遣会社のお話をちょっと聞かせてほしくて。実は今働いてる派遣会社辞めて他の派遣にしようかと思ってて、そっちの雰囲気とかどうかなって」
「それならすぐに終わるので話が先でいいです」
通行の邪魔にならないようにエレベーターの横に設置されている休憩用の椅子に二人で腰かけた。
「今の会社、ブラック企業に回される傾向がちょっと強いんですよね。派遣会社は人に仕事させてナンボなので、選んでないんだろうなっていうのがわかります。でもそれだとこっちもストレス溜まるし、他の会社を探しているところなんです」
「そうですか。ウチは派遣社員一人に必ず担当者がつきます。仕事探しの相談にも乗ってくれるし、こういう仕事はどうかっていう紹介も貰います。相談とかの仕組みはしっかりしてる方だと思いますけど」
「今回の企業みたいなのに当たった時は?」




