4 死神をあぶり出す
偽物の死神が個人で動いているのなら恐ろしく頭が良い。もしも組織で動いているのなら実行役はおそらくチョロいはずだが、そいつを動かせるやつは手強いような気がする。
『女だけじゃない、同年代の男もたらしこめ。言い寄られるくらいに本気でやれ』
不意に頭に蘇る一つの言葉。初めて聞いた時は何言ってんだこいつって思ったけど、こういうことにもつながるのか。あの時は夢中にさせろってことかと思ったけど違うな。執着させろってことだ。相手に、自分のことを考えざるを得ないほどストレスを与える。ほんと、何から何まで芸能界の真実に最も近かった奴だよな。人の数だけ真実があるっていうけど、あいつはほぼ100%の真実を自分のものとして操っていた。マジで化け物だ。
「俺の前で他の男のこと考えるとか、上等じゃん」
射抜くような目に一瞬体がすくむ。これがヒロインが味わった感覚か、まあまあヤバイな。怖すぎるだろ。
「八月の紫陽花のセリフですよねそれ」
「なんだ、結局見たのか」
「気になったので。大根役者が一人だけいてそこだけは早送りで飛ばしてました」
ヒロインの年上の先輩、風間さんが演じたキャラクターとはライバル関係になる人だ。二人の男の間でヒロインも心が揺れ動くんだけど。その重要なポジションの役者が俺から見ても演技が底辺レベルだったもんで萎えた。
「あー、あいつね。あれはあいつの事務所からこいつを絶対使えっていう圧力があっただけだ。演技の世界は実力じゃない、金だからな」
事務所がいくら金を出せるかで配役っていうのは決まる、そりゃ金を持ってる事務所が強いに決まってる。オーディションが公平に行われていると信じてる奴らには申し訳ないが、ほぼすべてのドラマの配役っていうのは金で動いてる。
「そろそろ出勤して良いか?」
ドアの外からそんな声が聞こえた。ここの店主さんだ。
「入ってくればいいだろうが、お前の店なんだから」
呆れたように風間さんがそう言うと、お取り込み中だったみたいだから、と言って店主さんが入ってくる。
「ざっくり説明してさっさと断られるかと思ってたんだが。予想以上に長引いてたな」
「違う観点から食いつかれたから、つい」
協力するかしないかの時俺が反論したことか。という事は二人とも俺が断ると思ったんだな。そりゃそうか、俺が協力する理由は特にないから。正直風間さんの事情を知らなかったら秒で断ってる。
「辛気臭かった面がやっとマシになったな。ほらやっぱり、彼と話して正解だろ」
意外にも風間さんと俺が会話をした方が良いと勧めたの店主さんだったらしい。
「どうして俺が話したほうがいいと?」
「あー、すまんな。君は一体誰なのかは縁から聞いた」
ああ、なるほど。風間さんとは俺が誰なのかを話したことはない。でもカフェで会ったとき、死神の話をして何も質問もなく聞き入れていたから気づかれてるだろうとは思ってた。死神に演じる仕事がどうのこうのと言う話をして、何もツッコミがなかったんだから。たぶん、初めて会ったときにすでに見抜かれていたんだろうと思う。
「なんとなく二人は正反対だろうなって思ったんだ。演じることを仕事にしてる縁と、生きる目的そのものな君。演技をするっていうことに関して、縁の二歩ぐらい先を行ってる。割と鋭いツッコミをしてくれるかなぁと思ってね」
突っ込んだらそのままバッサリ切り捨てて帰るかと思ってたんだけど、と彼は笑った。店主さんと話をした事はない、風間さんから聞いた話だけで俺がどんな奴かを推測したのか。なかなか凄い人だ、たぶん言ってることもあってる。
「縁のやりたいようにやればいい、逃げ道はいくらでも俺が用意しといてやる」
「へいへい」
居酒屋を二人でやろうって言ってるのかな、これ。多くは語らないけどなんとなく心が通じ合っているような二人の会話に俺も自然と笑みがこぼれる。そして大切なことを言っていなかったと思い出した。これが一番重要だ。
「今回の話は少し考えさせてください。今はまだ俺自身が力を貸す決定的な理由がありません」
「それはもちろん構わないさ。お前の決断がどうであれ俺は一人でも動く。いつまでに返事を、っつーのはない。やる気が起きたら連絡くれ」
俺も参加すると決めてからそのシナリオとやらを聞いたほうがいいな。内容聞くだけ聞いて決断を変えるとか、それはやる気がないと言っているようなものだ。分りました、と言って俺は店を出た。
今のところの気持ちはやらないほうに傾いている。どんな形であれ芸能界に関わるつもりはない。俺の居場所はそこではないし、誰がどう関わってくるか予測が立たない以上は下手な行動したくない。まさか本物の死神が出てくるとは思わないけど、本物の死神が関わった自殺者には関わるかもしれない。
それをやったから一体なんだっていうんだ、死んだやつはこの世にはいない。生き返らないし残された俺たちが何を考えどう生きるかは故人には関係ないことだ。
『お前は頭を空っぽにしてただ演じてればいい、考えるのは俺の役目だ。余計なことをするな』
何回か言われたな、この言葉。俺はそれに従った……ふりをしていた。思考停止の大馬鹿野郎になるなんてごめんだった。あいつだったらこういう時こうするだろうなと予測を立てつつ、自分だったらこう考えるという対局の考えを常に頭に入れていた。
でもどうなんだろう。それさえもあいつを戦略だったとしたら。ずる賢さに関しては普通のやつの十歩ぐらい先に行くようなやつだ。俺の思考回路なんてとっくにお見通しだったと思うし。
いったいいつまでふり回され続けるんだろうな。お前に。




