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ghost actor  作者: aqri
偽物の死神
20/59

2 自殺したアイドル

 命を大事にしてほしいとか、死ぬ前にできることがあるとか。それはきっと本人の痛みが全く理解できてない奴の上面だけの言葉だ。自分も辛いことがあって救われた経験があるから手を差し伸べたい、そんな人もいるんだろうが。それは手を差し伸べてほしいところに助けがあったから嬉しかっただけで、それを望んでいない人にとっては大きなお世話だ。

 それに結局本人の苦しみは本人にしかわからない。誰かに助けてもらうことで死ぬことを諦めるのなら、きっとその人は本当に死にたいと思っていないはずだ。

 誰も自分を救うことができない、自分で自分を救えないと結論づけたから自ら命を絶つというのに。まるで自殺をする奴が間違っているかのような世論は、正直俺も好きじゃない。生きる事は自分の意思で決めてるのに、死ぬ事は自分の意思じゃ決められないってなんともまあ理不尽な話だ。


「自殺の件も俺は別にそこまで気にしてなかったんだが。どうもきな臭い動きが増えた」

「偽物の死神、ですか」

「そ。先に俺の結論を言っておくぞ。誰かが死神のふりをしてる。噂を利用して荒稼ぎしてる奴がいるはずだ。本物の死神は死なせるだけだが、それを商売としてやってる奴は絶対に死ぬ前に財産をかすめ取ってる」


 そう言うとスマホを見せてくれた。そこに映っていたのは通帳の写真だ。ニ百万の貯金がわずか一週間でゼロになっている。三回に分けてどこかに送金されたようだ。


「先週亡くなったアイドルの子の物だ。同じアイドルグループの子が見せてくれた」


 なんでもその子は風間さんのハトコに当たる人だとか。親しいわけじゃないけど芸能界にいるということで、何回か相談にのっていたらしい。直接会うと週刊誌にすっぱ抜かれ面倒なので、常にアプリでの連絡だったらしいが。


「最近その子、杏樹の元気がないとは思ってたんだとさ。マネージャーに相談した翌日に亡くなったそうだ。事務所管理の寮生活でこの二人は同室だ、私物なんかもどこに何があるか把握していたそうだ。それで金がゴソっとなくなったんで何か犯罪に巻き込まれたんじゃないかって俺にも相談してきた」

「……警察ではなく?」

「そういうのは事務所の指示待ち。だからモヤモヤして俺に、ってところだな。芸能界ってこういう犯罪あるか聞いた事ありますかってな。芸能とヤクザが密接なのは誰だって知ってる」


 記帳されているのなら本人が通帳を確認したってことだ。つまり金を払う事は合意だったということになる。


「身近にいたその子が死神の気配を察知できなかったのなら、連絡が常にスマホってことですよね。スマホは?」

「見つかってない、間違いなく回収されたな。GPS機能で警察が見つける前に先手を打たれてるはずだ」


 たぶん今頃海の中だな。証拠となるものは残さない、電話会社に問い合わせてデータの吸い上げはできるが。事件性がなく自殺と断定されてしまったらたぶん警察は動かない。下手をすると事務所がそれを潰すかな、稼ぎ頭でもないアイドルに手間暇なんてかけない。


「本物の死神の場合は、くっちゃべって本人の意思が固まって、最終的には自分で死ぬ。今回はあてはまらない」

「というか、迷ってる人のところに死神は来ませんよ。死ぬことを心に決めた人のところだけです」


 そこは断言できる。直接手を下すことがあるにしても、あのカフェの店主さんがいい例だ。そしてたぶん、風間さんの同期の人も。


「死神、ってなると俺も気になってそれとなく若手にきいた。今この死神がどういう扱いされてるか教えてやるよ。すがりつく相手がいない哀れな奴に舞い降りてくれる救いの神だそうだ」

「あ、風間さんがブチ切れた理由が分かりました」


 許せるはずがない、そんなもの。生きること、死ぬこと、それは本人の自由だと言っていたさっきの言葉はきっと本心だ。どれだけ親しくても他人がその人の生き死に口を挟んで何になるっていうんだ。それは本人の都合なのだから。

 だからこそ残された人たちの自分勝手な都合だってぶちまけていいはずだ。何で死んじまったんだバーカ、そう思うのだって自由なのだから。だからこそだ。許せるはずがない。大切な人を死なせた奴を神格化するのも、それの定義も、それに縋る人も。あとは直接スイッチが入る何かを言われたか、だな。


「でもそれなら、俺に協力してほしいっていうのは?」

「ここまできたら腹割って正直に話すわ。これをビジネスとして成立させてる奴は絶対に存在する。それは金の動きを見ても明らかだ」

「まあ、そうですね」

「そしてそれを仲介しているやつが芸能界に必ずいるはずだ。芸能人じゃなくてもマネージャー、スタッフ、広告会社いろいろ可能性はあるが。絶対にこの辺の事情に詳しい奴は一枚噛んでる。じゃなきゃリスクが高すぎる」

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