表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ghost actor  作者: aqri
偽物の死神
19/59

1 死神の噂が再燃している

 直近で一番日にちがあいそうな日時を選んで俺たちは待ち合わせをした。待ち合わせ先はもちろん初めて出会った場所、あの居酒屋だ。さすがに話す内容が内容だけに、営業中に行くわけにはいかないからと午前中だ。営業は夕方からなので日中は店が空いているらしい、風間さんもこの日は午前中の予定を調整してくれた。

 店に入ると待っていたのは風間さんだけ。店主さんは夜の営業に備えてこの時間はまだ寝ているらしい。夜の営業だけでは厳しいので昼にランチでもやろうかという話もあったらしいけど、体壊すからやめとけと風間さんが反対したそうだ。


「俺が俳優辞めて二人でレストラン経営にしてくれるんだったら別にそれでもいいけど、って言ったらあっさり諦めやがった。失礼な奴だよな」

「それは風間さんに俳優続けて欲しいからでしょう」

「それが半分、レストランにあまり興味がないのは半分ってとこだ。レストランだとどうしたって女が増える。写真ばっか撮って料理二の次のインフルエンサーたちな、アイツそういう奴ら好きじゃないんだよ。あいつが好きなのは飲み屋の雰囲気だから」


 さて本題だ、とカウンターの席に腰掛けた。飲み物とかそういうのは全部断ってる。この人には時間がないだろうし手短に済ませようと先に連絡しておいたから。


「最近は下火になってた例の死神の噂。何でだか最近またちょこちょこ聞くようになった、主に若手俳優からな」


 この業界に入ったばかりの若手にとっては確かに食いつきやすいかもしれない。この業界で思うように花開かないことに悩んでしまう者は多いだろう。ネットがない時代は耐えることが美徳という考えが普通だった。仕事がないのも売れないのも自己責任で、辛い下積み時代を耐えてきた人たち。似たような境遇の仲間と支え合って、気合と根性で乗り切って来た世代が打たれ強くて粘り強いのは確かだ、良い意味で。


 でも情報社会なった今、生産性重視で結果がすぐに出てくれないと気がすまない考え方は若い世代に浸透しつつある。ほんの少しの努力を嫌い、一つの方法を試してダメだったらあっさりと諦める。それはそれで一つの方法なのかもしれないけど、そんなことを繰り返していたら実力自体つかない決まってる。過保護に育てられているからストレスに非常に弱い。


 俳優やアイドルなどキラキラした部分だけを見て育ってきた子供たちは「俺にもできる」「頑張れば報われる」これを憐れなほどに信じている。勉強すれば成果がついてくるから、全てがそうなると信じている。

 それが趣味だったらきっと報われる。でも、仕事はまったく話が別だ。特に日本は独特の暗黙ルールが多すぎる。実力が評価されて結果が伴うのは奇跡と言っていい。仕事の成果などコネと媚びで伸びるものだ。自分に不得意なものは誰かにやらせればいい、そのための口車が上手い奴が出世する。

 そういうものに耐えられない奴らは一昔前だったら宗教にはまるけど、今は目に見えないネットの虚像に縋るのか。


「芸能界では自殺なんてほとんど日常茶飯事みたいなもんだ。家族や事務所が公表しないことでマスコミに気づかれないように処理してることが多い。年末のニュースとかで流れる、今年旅立ってしまった人たちみたいな特集は全体の三分の一も報道されてないからな」


 それはそうだ、芸能人が何百人いるかって考えれば取り上げてもらう人たちは実績のある人だけ。鳴かず飛ばずのぱっとしない「誰それ?」と思うようなやつなんて取り上げるわけない。

 親族が表立って声をあげないのは、もちろん心情的なものはあるけど死因がドラッグなパターンが多いから。薬をやって死にましたなんて言えるわけない。悲しんでいる中、自業自得だとかそりゃそんなのに手出したら死ぬだろとか。挙句の果てに家族は何やってたんだなんて誹謗中傷がくるに決まってる。事務所もイメージダウンは避けたいからそういう場合は公表しない。


「ここからはちょっと深い情報になるが。この一ヵ月以内で俺の知る限り三人自殺してる。一人は噂では有名だった。完全にありゃ薬をやってたから。だが他の二人はやっと仕事をつかみ始めた頃だ、そこまで悩みがあったとは思えない」


 三人の名前を見せてもらったが知らなかった。こいつがドラッグ中毒、と言われた人も、もう一人も。でも最後の一人、女の子は知っている。つい先日ネットニュースで見た。アイドルグループの女の子だ。ただしアイドル自体は有名ではないのでネット記事程度で終わったみたいだな。


「そしたら先輩たちが教えるわけですね、実は昔死神の噂があってね、みたいな」

「その通り。ここまでは別にいい、直接俺に関係あるわけじゃない。死にたいやつは死んでおけばいいっていうのが俺の持論だ。批判されようが何だろうが、これは真実だ。本人にとってはな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ