17 風間からの連絡
たぶん、本人が切り取った。それも切り取ったとわからないようにかなり慎重に。ここにはおそらく、才華の本当の言葉が綴られていたに違いない。ノートに書いていることも真実だけど、本当の意味での本心。ずっと叫びたかったこと、誰にも言うつもりがないしわかってほしいわけじゃない本音。ここには何が書かれていたのだろうか。
「……。ダメだ、わからない」
才華モードがオフになってしまったから、というのもあるけど。あの時母親の前で俺は才華であることをやめた。俺自身を選んでしまった、過去の自分を重ねてしまったから。俺はもう完璧な才華にはなれない。だからわからない、ここに彼が何を書いたのか。
俺は本当の意味でも無色透明になることを選ばなかったから。一応この事は火男さんには報告しておいた。するとノートは俺が持っているようにと短い指示が来た。……嫌なお守りだ。
珍しく着信だ、俺の電話を鳴らすのは会社以外ありえないんだけど。見てみると何と表示されていたのは。
「え、風間さん?」
以前連絡先を交換して一回だけ写真のやりとりをした。その後カフェでばったり会った、でもそれっきりだ。もともと目的があっての連絡先交換だったから別に仲良しこよしってわけじゃない。だからこそ意外だった、文字じゃなくて電話なら緊急の用事かな?
「はい」
『お、意外にもすぐ出てくれた』
「何事かと思うじゃないですか。何かあったんですか?」
『俺と一緒にドラマ出ない?』
「それじゃ失礼しまーす」
言いながら本当に電話を切ろうとスマホを耳から離すが。
『ちょっと偽物の死神炙り出すの手伝って欲しいんだよね』
……なんだそれ?
『電話を切らずに興味わいちゃったって事はこの時点で俺の勝ちな気がする』
はは、と軽く笑っている風間さんに別に苛立ちはしないがなんだかものすごく悔しい。だって本当にその通りだから。
「協力するかどうかは別として、とりあえず話だけ聞いてみます」
『すっげー棒読み、聞くだけじゃ済まないんだろうなって思いながら言ってるだろ』
最初からそっちだってそのつもりのくせに。でも俺にとっても人ごとじゃないから教えてくれたんだろうな。あぶり出すって言い方をしたって事は彼なりにちょっとイラっとしてるんだろう、それでいて一人じゃ無理だから俺に協力を持ちかける。頼りにしてもらうのは悪い気はしないけど。
『そっちに迷惑かからないようにはする、なんたって顔出しはナシだ』
「へえ?」
『通話アプリでもいいが、直接会って話したい。今から送るアドレスのクラウド共有してくれ。俺のプライベート含めたスケジュールが入ってる。それ見てお互い調整しよう』
おいおい、そこまで俺に見せるのか。見られて困らないと思ってるにしても随分と大胆だ。悪用もしないって思ってくれてるってことか。というか俺がそういうのに興味がないって見抜かれてるんだ。
「わかりました」
本当にそれだけの会話だ、お互いそれじゃまた後でと電話を切った。今俺が掛け持ちでやっている派遣先が二つ。それに支障が出ないようにも調整してくれるってことか。どう考えても忙しいのは彼の方なんだけど。
それにしても、偽物の死神か。噂の出所がどこだか知らないが、変な盛り上がりがあったってことか。一般人は推しを殺す死神っていう認識だけど、芸能人の間ではまことしやかに囁かれる存在。その人が一番輝いて何かを達成した瞬間に現れて死なせてくれる。
切磋琢磨していた同期の人に何か関わりがあるんだろうな。じゃなきゃあの人が誰かを巻き込んで動こうとは思わない、きっと。