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ghost actor  作者: aqri
無色透明
13/59

13 依頼失敗

「気持ち悪いと思ってたのはお互い様だ。お前みたいなのが母親とか」


 やめるべきかな? いやでもちょっと八つ当たりも入ってるんだ。


「反吐が出る」


 俺が自分の母親に言ってやりたかったんだよな、これ。あの女、人の話なんて全然聞かなかったからアホらしいと思って言わなかったけど。結局俺が自分で家を出たから言う機会がなかった。

 俺の言葉に金切り声を上げて頭をぐちゃぐちゃと掻きむしる。こういうヒステリー起こすところも俺の母親そっくりだ。自分が世界一不幸なヒロインだと思っていて、理解してくれない周りの人間が悪い。稼ぎが悪いのは自分のせいじゃなくてろくな仕事を回してこない企業が悪い、時給が低いこの地域が悪い、物事が複雑で初心者にわかりにくい仕事のルールになってる勤め先が悪い。


――何考えてるのかわからない、息子が悪い。


 他にも言ってたな、100%自分が悪いのに他人のせいにしている、取るに足らないくだらない出来事の数々。


「親は子供を自分でコントロールして育てられるからいくらでも選択肢はある。でも戸籍っていうもので雁字搦めにされている子供にとっては親を選ぶ選択肢がない。不公平だ、なんで世の中の親子ってあみだくじとかで決められないんだろうな」

「もうやめて喋らないで! 才華そっくりで気持ち悪い!」

「こんな奴が親じゃなかったらもうちょっと幸せになってるはずなのに」

「うるさいうるさい! うるさい!! 私だって好きで結婚したんじゃない、好きで子供産んだんじゃない! 結婚しないと結婚しろって周りがうるさくて、結婚したらいつになったら子供ができるんだってうるさいから!」

「それに従ったのは自分だ。自分の人生に口出しするなって言い返せばいいだけだろ。それを周りから言われた程度で自分の人生を左右されたのは自分のくせに。何自分が被害者みたいなツラしてんだ、気持ち悪い女だな」


 彼女が椅子を持ち上げた。なんで部屋がシンプルなのかって思ったけどなるほど。凶器を作り出さないためか。置き時計一つで鈍器になるからな。

 そうして、椅子を思いっきり振り上げる。たぶん頭に叩きつけたいんだろうけど。ほんと、自分のことばっかりで人の話を聞かない女だ。

俺は勢い良く起き上がると女の肘を逆方向から思いっきり回し蹴りした。


「ぎゃあ!?」


「一応正当防衛だから。やりすぎると過剰防衛で怒られそうだから手加減はした。骨折してないだろ」

「ひいいいい!? 痛い痛い痛いいい!」

「睡眠薬が効かないって言っただろうが。殺されそうになってるのにのんきにおしゃべり続けるとでも思ったのか」


 アメリカに六年も暮らしていれば自衛手段なんていくらでも身に付いてくる。何もしていなくても因縁つけられるし、息をするように差別はあるし、部屋に鍵をかけても鍵を壊して入ってきてケツを掘ろうとしてくるアホだっている。

 短時間で確実に相手に致命傷やダメージを与えるにはどうするか。これを学ばない奴はぐちゃぐちゃになって死ぬだけだ。喧嘩に毛が生えたような体術だけどこういうのは自然と身についた。考え方もな。


 才華はずっとこうしたいと思っていたはずだ、でもそんなことをして一体何になるっていうんだ。自分がすっきりするわけでもない、家庭内暴力で起訴されて終わりだ。なぜこいつが被害者になって自分が加害者にならなければいけないのか、考えるだけアホらしい。一番いいのは関わらないこと。

 でも胸の内に抱えたドロドロしたどす黒い感情は? どこに処理先がある。どこに持っていけばスッキリするのか。何かで濾せるわけでもない。普通の人が濾せる程度の濾紙では、すり抜けるだけすり抜けて色がまったく抜けていない。

 たぶん自分自身というものを蚊帳の外に置いて、自分を第三者として見つめるという特殊な考え方でなければ自分を保てなかった。下手をすれば解離性同一性障害のようなものだ、でも才華はそれができなかった。というよりプライドがそれを許さなかったかな。その手段で本当の自分を維持していたのかもしれない。


 どうしようかな、今ここにいる俺は才華じゃなくて「俺」だ。もう少しどうにかすることはできるけど。

 俺が一歩近づくと、そのことに気づいた母親が悲鳴をあげながら転がるようにして部屋を出ようとする。すっかり腰が抜けているらしくこの状態で階段を降りられたら、文字通り転げ落ちるかもしれない。とりあえず襟をつかんで部屋の中に放り投げておいた。今ここだけ見たら完全に俺の方が犯罪者だ。


 どうしてやろうかな。そんなふうに考えたら頭の中で囁くように思い出すあの言葉。


「無理と無茶して良いが、無謀なことはするな」

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