アケオ、メコト、ヨロ
まあ、俺の話しを聞いてくれ。
ある日、地球は宇宙人に襲われた。
強大な軍事力で、世界中の各主要都市が一斉に攻撃されたのである。
勿論、全ての国家が黙ったままやられているワケは無く、持ち合わせている兵力で抵抗した。
しかし、銃弾も爆撃も砲撃も毒物も核攻撃さえも、宇宙人には通用しなかったのだ。
国連会議では議論が加熱した。
「もう我々に勝ち目はない。せめてアメリカ、ロシア、中国、インド、アフリカの土地を手渡して、残りを人類で分けられないか、交渉するべきだ」
「馬鹿な! それはお前が極小国だから言えるのであって、私に国を捨てる事なんてできない」
「そーだ。それに、小さい土地に人類を全て移動できるワケは無い。必然的に殺さなければならない人種が出てくる」
「その時は、人種ではなく、貧乏人を殺せばいい」
「けしからん。それはお金持ちのアメリカ人は残して、他は殺せという意味にしか聞こえないぞ!」
「違う。優秀な遺伝子を残すために必要な区別だ」
「嘘くさい話しだ。そうやって世界を牛耳る腹積もりなんじゃないか。そもそも、あの宇宙人、本当は巨大国家が作り上げた兵器なんじゃないのかね? 特に米露が怪しいぞ」
「馬鹿を言っちゃいかん。我々も大損害を被っているのだから、民主主義の銭野郎と一緒にされては困る」
「なんだと!」
「待て待て、落ち着きたまえ。それよりも宇宙人が交渉に応じてくれるという保証はないんだ。身内を疑っている暇はないぞ」
「それもそうだな。しかし、どうすれば……」
何も解決案が思い浮かばない一同は押し黙ってしまった。
結局、その国連会議では結論は出ず、宇宙人による侵略は続いたのである。
そして世界の半分以上の土地が奪われてしまった。
もう直ぐ年越しだというのに人々は絶望し、打ち震え、自殺していく者が後を絶たなかった。
だが、ある時、生き残っていた各国の代表が緊急招集された。
「どうしたというのかね?」
「まあ、この映像を見て欲しい」
「今更足掻いた所でどうしようもだろう」
そう絶望していた人間も、放送されたビデオを見ると全員が声を失っていた。
「まさか……」
「その、まさかなのだよ」
画面には宇宙人が死んでいく映像が流されていたのだ。
人間が持っているどんな兵器でも殺せなかったというのに、バタバタと倒れているのだ。
「これは、どういう事なのだ? 何が起こっているのだ?」
「死んだ宇宙人を解剖した報告結果によると、どうやら人間の肉声が駄目らしい。特定の音波を耳にすると脳がやられてしまうんだかとか」
「そんな、くだらない事で」
「ああ、私もこの事実を受け止めるので精一杯だよ」
「どうして、誰もそんな簡単な事に気が付かなかったんだ!」
「……突然、戦争が始まった事と、戦争中だから敵に話しかける奇特な奴が居なかったからだろう」
「しかし……そんな」
「ああ、もっと早くに気が付けば、地球が半分以上も乗っ取られる事はなかっただろうな。我々の同胞が死ぬ事も……」
全員がやるせない気持ちで項垂れてしまったら、不意にその中の1人が手を上げた。
「そういえば、宇宙人の弱点を知った切っ掛けは、ある国の言葉だったと耳にしたのですが」
「ああ、日本の言葉だ。どうやら、一年に一回使うとされているらしく、それが最も効果的な言葉だと報告が来ている」
「そこで提案なのですが、その言葉を世界共通の挨拶にしませんか? 隠れている宇宙人を燻り出すのに効果的だ」
「なるほど、それは名案だ」
「私も賛成だ」
「ああ、是非やろう」
人々は拍手喝采と共に、全員が賛同した。
それは世界が本当の意味で1つとなった瞬間であった。
今まで話していた死刑囚が、看守にこう付け足した。
「その言葉が、アケオ、メコト、ヨロ。つまり、あけおめ、ことよろというワケよ」
「なるほど」
「もしかしたら来年には、そんな宇宙人が攻めてくるかもしれないだろ。俺も、あけおめ、ことよろ、って言って協力するよ。だから、明日の死刑執行は延期してくれない?」
「ダメ」
「ですよねー」