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第4話 偽りの友情②


 放課後の誰もいない渡り廊下。

 渡り廊下には柱が全部で八本ある。全て銀色で綺麗に整っている。ここは日中問わず見晴らしが良く、人通りも少ない。

 放課後になると、眩しい夕陽が射し込み、剣術や魔術の練習をしている生徒の姿が見られる。


 路ノ瀬いのりは柱に背をもたれかかせて、プロフカードを眺めていた。


(好きな人はいない、か……)


 いのりはそう呟き、哀愁漂う瞳で俯く。別に落ち込んでいるわけではない。ユズに好きな人がいないなら、無理やり私を好きにさせちゃえばいいのだから。


 それはそうとて、カードに書かれている全情報を彼女は一瞬で記憶していた。これもいのりの使う魔法の一種なのだが――まあこれは後ほど話すとしよう。柚華の個人情報が知れて、嬉しそうないのり。


 彼女はもう一枚所持していたプロフカードをポケットから出すと、はにかんだ。


「私も書いてきたんだぁー!」


 相手の事を知るなら、自分のことも知ってほしい、といのりも書いてきたのだ。


 プロフカードを手にして、柚華の到着を待つ。



 コツコツコツコツ。


 しばらくして。

 誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。上品な歩き方と足音ですぐに柚華だと気づく。


「遅くなってしまって、ごめんなさいね」


「別にいいよ。時間の約束なんてしてなかったし」


「そう。それで何か用? 放課後、呼び出したって事は何か用があるんじゃないかしら」


「ん。まずはこれ。私もプロフカード書いてきたから、受け取ってほしいの」


 そう言ってクローバーの絵柄の可愛らしいプロフカードを柚華に渡す。いのりの字は丸文字の可愛い字だった。柚華の字は丁寧で優等性らしい字。字だけでも似ていない二人だった。


 プロフカードを受け取った柚華は嬉しさを顔に滲ませていた。


「……ありがとう」


 そこから、暫しの沈黙が流れる。


 ――いのりは悩んでいた。

 毎日、ユズと会ってお喋りしたい。ユズに会いたい。人生で一秒でも多くユズのそばにいたい。

 その気持ちに偽りは無い。けど、「毎日放課後に会いたい」なんて言ったら、好きって気持ち、バレちゃうんじゃ、と懸念しているのである。


 静寂を打ち破ったのはいのりだった――。


「あ、あのさ、毎日放課後、渡り廊下で会わない? ほ、ほら私たち友達なんだし」


(い、言っちゃった……!)


 赤らんだ頬で顔をフィっと逸らすいのり。彼女はこれを告げたら、さっさと帰りたい気持ちでいっぱいだった。


「じゃ、じゃあ私、やることあるから、もう帰るね――んっ?」


 身体が動かない。

 何かに固定されているような感覚。いのりが振り向き、原因を目で追うと――柚華に腕を掴まれていた。しかもがっしりと。


「コホン」と咳払いをする柚華。


「放課後、毎日渡り廊下で会うのはいいわよ。忙しい日を除いてだけど」


 ホッといのりは胸を撫で下ろす。


(まだバレてない)


「あとね、言おうか迷ってたんだけど……」


 ゴクリと唾を飲み込む二人。

 緊張感が漂う。


「貴女、私のこと、好きでしょ?」


「ふえっ!」


「……」


「い、いやいやいや、そんなわけっ、ないってば! 確かに友達としては好きだよ? けど何でその結論に至るの? 私がユズを好きっていう証拠は?」


「確実な証拠は無いけど、それでも良ければ話を聞いてほしい。私といる時、いつも顔赤いし、私のことを知りたいとか会いたいとか言うし、何より《《オーラ》》で分かるのよ」


 オーラ。

 それは柚華の持つ魔術の一種。人の気持ちが光る色になって分かるらしい。


「試験の時はまだ尊敬のオーラだったわね。けど、私に会うにつれて段々恋情のオーラに変わってきた。それにいのりが私といる時と私から離れた時の魔力量の差が全然違う。自分でも気づかないかしら?」


「オーラに確証はないから確かめたかったの。それでどうなの?」


「そうだよ! 私、ユズのこと大好きだよ! 今はユズに夢中で……最近はユズの妄想で眠れない日々が続いてる。それくらい好き、愛してる。バレちゃったからには仕方ないよね……、私と付き合って下さい!」


 まるで罪が暴かれた罪人のように白状するいのり。さっきとは打って変わって、素直だ。しかも告白までしている。


 これに柚華はどう答えるのか……。


「ごめんなさい」


(……終わった)


「私、恋愛とかしたことなくて、お付き合いするってどういう意味か分からないの。具体的に何するの?」


(へっ!?)


 一通り、カップルがどういう事をするのか、を教えてみた。


「いのりは友達以上のことがしたいのね。そういう関係になりたいのね。分かったわ」


「うん」


「でも女の子同士じゃ子供は出来ないわよ?」


 またも爆弾発言。

 いのりは仰天する。


「それでもいいの!」


 強引に説得しようとするいのり。

 いのりは別に子供が欲しいわけじゃない。柚華と一緒に居られればそれでいいのだ。


「私はまだいのりを好きになってないのに、付き合ってもいいの?」


「付き合っていくうちに好きになるかもしれないじゃん!」


「それはそうね、一理あるわ」


 その時。いのりは何かを思いついたようで、ハッと目を見開き、ポンと手を打った。


「それじゃあ、こういう賭けしない?」


「賭け……?」


 柚華はきょとんと首を傾げる。


「ユズが私を好きになったら、ユズの勝ち。ユズの言うことを何でも聞く。ユズが私を好きにならなかったら、私の勝ち。私の言うことを何でも聞いてもらう」


「それでどうかな?」


「面白そうね」


 身を翻し、「帰りましょ」と腕を引こうとする柚華をいのりは引き留めた。


「まだ聞いてない」


 力強い、いのりらしくない声に柚華は驚く。立ち止まり、彼女のほうを向くといのりは真剣な目をしていた。


「ん?」


「告白の返事、聞いてない」


 柚華の制服の袖を可愛らしくつまむ、いのり。不満げな表情で上目遣いで柚華を見つめる。


「もう一度、言うね。私はユズのことが好き。こんな私と付き合ってくれますか?」


「はい」


「付き合いましょう。賭けも面白そうだし。こんな私で良ければ。女の子同士でも気にしないわ」


「――分かった、ありがとう。今度こそ、そろそろ帰ろっか」



 月が二人を照らす。

 晴れて恋人になれた二人は仲良さそうに手を繋いで、帰路を歩いていた。まだ恋人繋ぎではない繋ぎ方で。



「私、負ける自信ある。絶対ユズが勝つって。――いや、ユズを勝たせてあげたい」


 ぼそぼそとした呟きは柚華の耳には小さすぎて届かなかった。



 ***

 柚華宅。


 ふーっ、と深呼吸をする。

 ベッドで寝転ぶ。


 そんな動作をした柚華はいのりから貰ったプロフカードをニヤニヤしながら、見ていた。こんな顔、絶対親には見せられない。


(ここの好きな人いますか? の回答欄のいるって私のことだったんだー)


(好きなタイプの、カッコよくて魔法が得意で、青い瞳をした、長い黒髪ストレートを持つ、クールでルノワール魔法学院を首席で入学した女性って、どう考えても私のことじゃん!)


(明日からどんな未来が訪れるんだろう……付き合うってなんだか実感湧かないな。いのりを好きになる……うーん、今は考えられない)


 そんなこんなで、その日の柚華は眠れなかった。いのりも多分、眠れてないだろう。

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