第3話 偽りの友情①
とある日の深夜。
いのりにプロフカードの書き方を教えてもらった柚華は早速、プロフカードを書いていた。
(うーん、何だろ)
誕生日とか血液型といったような基本的な個人情報、好きな食べ物や嫌いな食べ物、好きな教科等は答えられるのに、その他の欄は空白だった。悩み悩まされる柚華。
空白だったらきっと、詳しく問い詰められるだろう。
まずは趣味の欄。
一日中、魔法の勉強や実技に時間を費やし、そして親に幼少時から趣味の物を買って貰えなかった柚華は、これといって趣味と言える物が無かった。
(別に魔法の勉強は好きじゃないし。だから、趣味ではない……)
(んー、あ! そうだ! 魔導書っ。魔導書に隠れこませてちゃっかり読んでる文芸小説、あれは楽しい!)
そうして、趣味の欄は「読書」と記入した。
次は恋バナのコーナーだった。
ここは更に柚華の頭を悩ませる。
何故なら彼女は女子校育ち。恋など一度もした事がない。適当に、といっても全てを適当には書けない。
Q、好きな人はいますか?
(ここはいないっと。……いや、いないというといのりを傷つけるかな?)
変な所で心配になる柚華だった。
Q、好きなタイプは?
(んー、タイプ? 誠実でしっかりしてて、イケメンで魔法の腕が凄い人……? ダメダメ、こんな事書いたらいのりは魔法の勉強を頑張り《《過ぎて》》しまうに違いないわ)
結局、別の答えに直した。
Q、将来子供に名前を付けるとしたら?
「こ、子供!? キャー!」
うっかり声に出してしまった。
妄想が爆発してしまい、顔が火照ってしまう。何せ、柚華は17歳。親になる気持ちなど、無い。それに結婚だって想像がつかない。まあ、お嬢様だから親の決めた相手と結婚するんだろうけど。
一応、男の子と女の子、どちらも書く欄があった。
(ここはメルとジャックで)
キラキラネームでもどうでもよかった。
そして最後に一言の欄。
(ここはよろしくお願いします、でいいよね?)
書き終えた頃には三時過ぎ。
どうしてこんなにも時間が掛かってしまったのだろうか。
「明日、いのりに会わせる顔が無いや……ふぁーあ」
グッと伸びをして、天蓋付きベッドに横たわる。そうして眠りに就いたのだった。
***
:Side いのり
《《友達》》、という言葉に胸がざわざわした。ユズと私は友達。それは変わりの無い事実なんだけど。だけど――友達以上の何かを求めている自分がいた。
ユズとハグがしたい、キスがしたい、叶うならえっちだって――したい。
それって《《友情》》っていえるのかな? この友情がユズに伝わったら、私嫌われるのかな?
ユズのこと、もっと知りたいし、もっとユズに触れていたい。
だから、彼女が書いたプロフカードを見れる日が楽しみだった。
今まで女の子しか好きになったことがなかった。もし私がユズに恋愛感情を抱いているなら、ユズは四回目。ユズは今まで出会った誰よりも素敵で、可愛くて大好き。それは私はだけの秘密。
好きな相手と一度も付き合ったことが無い。それは女の子相手だから、っていうのもあるけど、私が「好き」って思いを相手に伝えた事が無いから。バレるまで封印しているの。
そして、自分で自分を異質な存在だと思っていた。今まで何度も自分を偽って生きてきた。つらいし、生きづらい。
ユズを独り占めしたい。
ずっと可能なら友達でいたい。きっと友達以上の関係になったら、私からユズが離れていってしまうから。そうなるのが一番怖かった。《《好き》》の思いを抱えていても、一緒にいられるなら、一緒にいたい。
その日、私はユズのことばかり考えているのだった。
***
いのりが柚華に「プロフカード書いて!」と頼んだ日の2日後。
いのりは柚華の教室に赴いていた。
「おはようっ」
「ええ、おはようございます、いのり」
「……プロフカード、書いてきてくれたよね?」
すっと無言でカードを手渡す柚華。
無表情だけど、頬がほんのり赤くなっていた。
「ありがとっ。あとで見てみるね!」
プロフカードを大事そうに持って、そそくさと教室を去ろうとするいのり。だが、彼女は重要なことを思い出したようで……。
「あ! 今日も放課後、渡り廊下集合でいいかな?」
「分かったわ」
強い眼差しで柚華は頷く。
放課後、びっくりする程の急展開を迎えることをこの時の二人はまだ知らない――。
そして、二人の関係性はゆっくりながらも徐々に変わっていく――。